白旗
「それでは、待望の核心に入ろうかな。」
「えっ、本題じゃなかったの?核心って、今までは違うの?」
「またこれよ、この人(上司)いつもこうやって、ダラダラと無駄に事柄を長引かせるのよね。ほら、結婚式の披露宴でスピーチをする奴によくいるじゃない。全然面白くない話をとくとくと語るパターン。長けりゃ形が整ったと勘違いしてるからね、薄っぺらいのよ、考え方が。」
「アハハハ、記念の映像DVDでは、出番が割愛されてる人だよね。気の毒だけど確かに糞つまらないからね。”え~二人の馴れ初めは、”から始まって、自分の時はどうだったとか、結婚生活はどうあるべきだとか、戦国武将の夫と妻の有り難いエピソードとか、ぐだぐだと話をする、けど、誰も全く聞いてないからね。」
「そうよ、そのハゲ頭に家の絵を書き込んで、光を当てながら、”これが明るい未来の家庭ですう~”くらいやって欲しいもんだわ。」
「君達は、この僕を愚弄するのか?」
「誰も拓ちゃんのこととは言ってませんが。」
「とにかく、ハゲやブスのことで話を煮詰めても意味がないんだよ。」
「じゃあ、チビやガリでいきますかね?」
「あんたね~、まだ自分から皆を逸らそうとしているわね。」
「ムムム、・・・それは駄目?」
「最初に僕が言ったことをすっかり忘れているんじゃないだろうな。デブについてだよ、分かっている?デブだよ、デブデブデブデブ。」
「分かってるよ、1回で十分だよ。」
「それに、デブの意識は概ね掴めたから、良しとするかな、次、宜しく。」
休戦になったか?助かった。この戦いは俺にはどう考えても分が悪い。もう疲れたので、負けで結構。この2匹の不細工獣人からの陰険極まりない厳しいデブ駄目だし尋問を受け続けたお陰で、かなり精神的に体力を奪われてしまった。攻撃は受け慣れてくるとその防御の活路が見えてくるものだ。応戦型防御が駄目なら避難型防御である。押しても駄目なら引いてみな。河の向こう岸に渡るのに流れに抵抗して直進するより、流れに任せて下流の岸に着いた方が楽であろう。くどい説明だが、要は白旗掲げて正解なのである。
「分かりました、覚悟を決めましたよ。さあ何でも言ってくださいな。お望み通りに応えましょう。」
「どうしたの亮ちゃん、急に何言い出したのよ。」
「今日の意見の主役は君だからね。じゃんじゃん言ってよね。」
「脇役で十分、だから、これ以上問い詰めるのは勘弁してくれよ。」
「なんか勘違いしてない?別に取り調べてる訳じゃないからさあ。別に明快な答えを求めるようなことじゃないからね。今までも君に問い詰めたつもりはないけどね。」
嘘つけ!千夏の猛圧力を利用して、俺のモチベーションを地球の裏側までへこましやがって。こういうエリート面した奴ほど腹黒いんだよ。まあ、本物のズラになるのは時間の問題だがな。
「それじゃあ、やっとこれからどういう事業展開するかを教えてくれるんだよね。」
「そうだなあ、それも分かると思うよ。じゃあ、千夏ちゃん、彼女を呼んでくれる。」
「了解、もう分析出来てるはずだからね。」
『分析?』
モチ女は右腕を口元まで上げると、手首に着けている黒いブレスレットのような物に声を掛けた。
「ディーアール2号、出て来て頂戴。」
すると、何処からか返答の声が聞こえて来る。
「分かりましたばい、あんた達から頼まれた分析データも作り上げたけんね。」
そうして、浮き出てくるように、目の前に人影が映りはじめた。それは次第に質感のある姿に形作られ、ついに全貌が現れた。




