損益分岐点
「だからさ、パパが行くって言ったら、私も行って良いでしょう?」
「そうねえ・・・本当に効果あるの?、お金もかかるんでしょう?」
「俺は、取り合えずウォーキングとスポーツセンターでトレーニングかなあ。」
「ダメダメ、独学のダイエットは絶対成功しないって、友達も言ってたわ。」
「でもさ、お前の言うやり方は、ある程度の太ってる奴の方法だよ。僕だったら続かなくて直ぐやめるよな。」
「そうねえ、ママも運動神経ゼロだし、テレビで色んなサプリメントダイエット紹介してるから、やってみようかと思うのよ。」
「なんだよ、亜希子さん、またそれですか?そんなもんで痩せられたら、皆やってますよ。ウンコいっぱい出せば良いってなら、アフリカ象なんか激ヤセしていますぜ。」
「なによ、ママを象といっしょにするとは、どういうこと!、私は車みたいなウンチしないわよ!」
まったくうちの家族は、賑やかに尽きる。ドアを開ける前からワイワイと良く聞こえるのだ。オペラ歌手が、声圧を付けるためデブになるってのが納得できる。
「あっ、パパお帰り。」
「色々話してるようだけど、俺もふんばりながら考えてみたよ。それで、家を買うのにどれぐらい頑張らないといけないのかを調べてみないとな。」
「海斗、出番よ。」
「りょ!、それでは新居の名義人となられる予定の亮治様の今後の傾向と対策ですが、こちらの我が家の家計状況、新居購入費及びローン費用に対する亮治様の所得収入のグラフをご覧ください。」
PCからA4用紙に打ち出した縦軸に費用と所得収入、横軸に肥満度数の管理会計グラフをテーブルに乗せた。所得収入に対し、経常家計費、ローン返済額を固定費として、肥満度合により税負担が下がっていく変動費がクロスした相関図表が示されている。
『これ位の勢いで勉強すれば、もっと成績が上なんじゃないか。それに、俺がどれくらい稼いでいるか、子供にばらしやがったな。』
会社の経理部の業績報告書でも、こんな明快な資料を目にしたことがない。
「細かい説明は省き、結論を申し上げます。現在、我が家の状況はこの地点にいるのでありますが、この×のようになっている所が損益分岐点であります。」
# ふん、ふん
「まあ、昨今の低金利により、新居購入後も若干生活にゆとりがあると予測されます。」
# なるほど
「それでは次に、現段階で健康消費税が実施されてしまった場合、次のようになります。」
# なに!
損益分岐点が、大幅に上昇した相関図表である。家を購入するどころか、通常の生活もカツカツの状態になりかねない。
「パパ、どうしよう。お家が、お家が、遠くなるよ~。」
冷や汗どころか、背中に悪寒が走るようである。この怒りを勝手に理不尽なことを決めようとする政府と役人に怒鳴りつけたやりたいが、ここで言ってもただの遠吠えで、皆の気分を更に悪化させるだけだ。しかし、今の稼ぎを子供達にばらしてしまうとはな。
「パパ、トイレで何か考えがまとまったの?良いこと思いついた?」
「・・・ああ、いずれにせよ税が実施されれば、予想以上に苦しい状態になることが分かった。特に俺は頑張らないといけない。取りあえず肥満度をできるだけ短期間に下げることを考えるか。」