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デブでありき

# カアカアカア カアカアカア

 田舎の夕暮れに包まれ、哀愁に溢れたノスタルジックな雰囲気の中、余りにも、そして完全なる不毛な会話である。人間、理性を忘れてしまえば、死ぬまで罵り合う、げす極まりない哀れな生き物なのだと思うのである。

「それじゃあ、千夏ちゃん、デブのイケメン、ハゲのイケメン、チビのイケメン、付き合いたくないのは。」

「デブ。」

「理由を述べよ。」

「ハゲもチビもイケメンを保つことはあるけど、デブは、結局、顔も身体もデブなのよねえ。」

「デブは、総てを駆逐するのですか。」

「そうなのよねえ。」

「そうかあ、確かに上玉女子もブス女子も太ったら同じだもんな。うちのカミさん、学生時代の写真見たら結構可愛いもんな。」

「それが片鱗も見えないほどのデブなんだ。」

「そう、まあ僕の食生活に合わせちゃったのが原因なんだろうな。」

「デブは、恐いのよね。周りもデブにしちゃうのよ。」

「デブの増殖かあ。デブだらけの環境にしてしまえば、デブと言えなくなる。」

「納得。」

「そんなゾンビ扱いしないでほしいなあ。」

「あとさあ、巷に走っている煩いバイクとか改造まがいの車に乗っている奴等って、デブなオッサンが多いけど、あれ、自分はイケテルと思ってるのかね。」

「そうそう、それで、変に浅黒く肌焼いて、タンクトップ姿で乗っているの、自分はアクティブな奴だと言いたいのかしらね、最悪。」

「それには異議あり。ダメ車の持ち主にはガリ痩せのお兄さんも結構いるよ。」

「いずれにしても自分自身の能力で勝負出来ない哀しい人達だわね。」

「ガツンガツン言ってるけど、千夏ちゃんは自分がデブだと思っていないと?」

「当たり前よ、このポッチャリもち肌女子に擦り寄ってみたい色欲男子の飢えた眼差しが辛いのよね。」

『出た、この勘違いブタ。』

「なに、その官能小説みたいな言い方。いやあ、千夏ちゃんも、えらく棚にあがっているんだな。自分でその自慢?のモチ腹を鏡の前に曝したことあるのかい?」

「もちよ、この吸い付くようなたるみをブルンブルン振るわせると、ああ~これに殿方がメロメロになるんだわ~、最高!って感じるのよん。」

「これって、そんな小説じゃないですよね。」

「んー、根底から自分の都合が良いように考えているとは、恐れ入るなあ。完璧にデブ専の男目線しか視野に入れていない。」

「取り合えず、デブであることは認識しているで良いんですかね。」

「オホーホホホホ、私は、そんなデブと云う低俗な分類で語られたくはないのよ。」

# カアカアカア

「これまでの対話で、だんだんデブというものが分かってきたような気がする。」

「本当にそう?ただ好き勝手に喋っているだけじゃない?例えばどんなこと?」

「デブは、2つの形態に大別することにした。1つは、元々からのデブ。もう一つは、なっちゃったデブだな。よって、デブの意識が大きく違うようだ。以前に痩せていた時代や痩せた経験があるデブは、たるんだ体型やだらしない生活習慣への背徳感がある、出来れば改善したい願望が残っている。ところが、元々デブは、周りからの情報だけの痩せているとはどういうことか実感がない。起点がデブであり、それ故に何故これほどデブで苛まれなければならないのかと常に感じるのである。つまり、自分はデブでありきの思想”デブの我は思う、故にデブここに有り”なのである。」

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