義春ちゃん
「了解しました。」
「それじゃあまず手始めに僕が常日頃から疑問に思っていたことから言うよ、
デブって、どうしてデブのままなんだろうということ。」
「????」
「千夏ちゃんは、どう思う。」
『ププ、餅女の名前って、千夏か。』
「またそれですか?どうしても痩せられないのよね。そんなに沢山食べてる訳じゃないのに、不思議なのよね~。」
「亮ちゃんは、どうしてか分かる?」
「りょ、りょうちゃん?」
「何か、気になった?」
「室長、これって、業務上のミーティングですよね?ちゃん付け、ですか?」
「ん~そうか、君って意外と真面目なんだね。千夏ちゃんから事前に話があったはずだよね、この田舎の情景に、そしてこの皆の格好の意図を考えてよね。このコンセプトで、職名で呼び合って、堅っ苦しい言葉遣いで会話して、違和感があると思わない?」
「はあ。」
「じゃあ、ちゃん付けで呼び合うで良いよね?」
「ウウン、失礼ながら、僕にはこの格好にさせられたことに、非常に違和感を感じるんですけど、理由を聞かせて頂けますか。」
「う~ん、訳を言わないと駄目?」
「そうよ、言ってくださいよ、今回はさすがに私も聞かせて欲しいわ。」
「千夏ちゃんまでダダこねるのかあ、仕方ないなあ。実はね、僕が小さい頃は、こういう田舎で暮らしていたんだよ。野を駆け回り、昆虫を集め、川魚を釣り、みかん畑で盗み食いし、他人の裏山で竹の子を掘りまくっていたものだよ。」
「とんでもない悪ガキだったのね。」
「そんな前置きは結構ですから、サクッと説明してください。」
「まあまあ、そうせっかちにならないで。それで、友達じゃなかったけど、一つ年が下の子でね、義春って幼馴染がいたんだよ。一年中、ランニングシャツで短パンで、下駄を履いてたんだ。」
「それで、その子に見立てて僕ってことですか?」
「ああそうだよ。むちゃデブだったからねえ。田舎には、お金持ちなんか居なかったから、ヒョロヒョロの子供ばかりさ。なのに義春ちゃんは、とんでもないブタ体型、気になって、ず~~~と気になってさあ。」
「その子供、虐められていませんでしたか?」
「そりゃあ、もち、デブ、ブタを始め、布袋、八戒、百貫、ブッチャー、とか言われてたなあ。」
「そりゃあ、それ程のデブですみませんでしたね。」
「何も、亮ちゃんに言った訳じゃないよ。」
「アハハハハ。」
「浅沼さん、笑える立場ではないと思いますが。」
「ウルサイ!」
「千夏ちゃん、逆切れはよそうよ。」
「それで室長、どうしてデブなのか義春ちゃんに聞いたんですか?」
「聞きたかったんだけど、やっぱり虐めてるようで駄目だったよ。だって、デブは暑苦しいし、臭いし、だらし無いし、モタモタしてるし、運動出来ないし、そのくせ口ばっかり動くし、誰だってなりたくないだろう。」
「ケチョンケチョンに言ってくれますわね。でも、デブですと良いところもありますわよ。」
「冬でも薄着で平気、風に強い、腕力がある、風呂の湯が少なくてすむ、寝押しが完璧に出来る、出されたものは全て食べる、飲食店を良く知っている、美味しいものが分かっている、大量に食い物の貯め買いも平気など、沢山ありますよね、浅沼さん。」
「・・・う、うん。」
「アハーハハハハ、寝押しなんか今時やってる奴なんかいる?結局、食べることが基点になっているんじゃない。これから聞きたいのは、そこなんだよ。君達デブ族の意識をよく教えてほしい。何故、デブのままで甘んじているのか。」




