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愛しの姐さん

『俺に興味を示す?どういうことでだろうか?』

 寡黙、頑な、自己中、そしてむっつり助平の巨デブ、どれをとっても取り柄が無く、面白みが見当たらない。自虐のネタで冗談を言うユーモアのセンスの欠片も無い。家族の勢力図中でも、最低の位置にいる俺である。

「ほら、なにそこでボーとして立っているの、行きますよ。」

「あ、はい。」

 とはいっても、そのスーパー事務机は1台しかないじゃないか。お供えブタのケツ用の座席でも、同様の俺のケツのスペースがあるわけがない。

「あのお、どうやって・・・。」

 すると、驚きの一瞬だった。巨大な樹脂塗りの壁が映像が切り替わるように無くなったのだ。

『ムムム、こ、これは。』

 澄み切った青空、コバルトブルーの海原、果てしなく続く白砂の浜辺。

『これは本物か?』

 目の当たりにして、錯覚に陥ったのであるが、俺には経験済みのものである。

「ばーちゃるてくのろじいびじょん???。」

「あら、良くご存知なのね、そう、バーチャルテクノロジービジョンエクストリームよ、日本じゃ知る人なんて殆どいないと思ってたわ。それはどこかで?」

「ええ、変態インストラクターの犠牲に、いえ、ちょっと個人的事情でやったんですよ。」

「やった?観たんじゃないの?」

「いや、マルチメディアグラスをかけて、触手センサーを装着するシステムならバーチャル体験出来ます。実物を触っているのと同じでしたよ。」

「へえ、やってみたいわね。あ、来客者用モビデがやっと来たわ。」

# フェンフェンフェン プシュー

 すると、お供えブタのものとは若干小ぶりではあるが、自走するオフィス机がやって来た。

「それに乗ってちょうだい。これから先は、この子が貴方の面倒を看ることになるのよ。」

「面倒を看る、とはどういう意味ですか?」

「この子は、とても賢いのよ。色々と教えてくれるから、言われる通りにしてれば、大丈夫。さあ乗って、行くわよ。」

 その自走オフィス机に着席した。すると、机上の脇にある映像スコープのようなものから光線が出て来て、3Dで人物が映し出される。

 和服姿、細面で切れ長の眉、涼しげな瞳、ぞくっとする程の艶めかしい美女。

『・・・・いい女だ。』

 我を忘れて、目が釘づけになった。

# 私は、アカネ。このマシーンの案内役なの。オフィスに来られる殿方のお待ちしていたのよ。この度、貴方様のお世話をすることになって嬉しいわ。宜しくね。ここで何か聞きたいことあるかしら?遠慮無く言ってちょうだいね。でも、エッチなことは誰かに聞かれない所でね、ウフフ。

 ほとんど和風キャバレーのお姉ちゃんのノリである。これは面白い、俺の理想とする和風美人。質問してみた。

「他のマシーンもアカネさんのような綺麗な人が案内役なんですか?」

# まあ、のっけからそういうことをお聞きなさるのね。私は、この席に座った方の人物データを分析して、その方が一番リラックスできる姿に創造されたのよ。だから貴方様、堅苦しいから亮さんで宜しくて、亮さんが、理想の相手とする人の姿。席に座ると一瞬にして血液型は勿論のこと、ホルモンバランスや骨密度、脳波形成、アレルギー形成等など145分野の個人差を分析して出来た結果なのよ。だから、一つとして同じ案内人は居ないのよ。私は貴方だけのもの。

 これは、す、素晴らしい!是非、うちの職場にも置いてもらいたい名器機である。

「ほらほら、恋愛する勇気の無いアニメオタクみたいに、そんな安エロ映像姐さんに夢中になってるんですか。」

# あら、お呼びがかかったわ、淋しいけど移動中は一旦姿を消すようになってるの。私に逢いたい時は、また名前を呼んでね。

「え、そうなんですか?」

# ごめんなさ~い

 愛しのお姐様が見えなくなると、オフィス机が動き出した。

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