共謀
まったくこいつら。デブからデブの脅し文句を言われると異常にむかつく。いったい誰のお蔭で、お前らデブに成れたんだよ、と言いたいところだが、デブのことで内輪喧嘩をしても何も得るものは無い、皆デブなのだからな。
「パパ、何ブツブツ言ってるの。とにかく本題はこれからよ。ほら、海斗、続きを話して。」
「りょ!、これが各人の負担税率の課税標準値であるが、これに年齢別基礎代謝率が乗じられるのであります。つまり、年食ってると課税標準値に近い税率になるということである。だから実際の税率は、亮さんは、43%、亜希子さんは、35%、拙者は、29%、真帆は、28%と予測されるのであります。」
沈黙。さっきまでの焼き肉の盛り上がりの場は、祭りの後となった。現在、消費税は10%、主要食料品は除かれるということであるが、個別消費税とはいえ運賃、施設使用料、嗜好品など様々な消費に付加されることとなり、そして不動産、つまり夢の新築住宅もしかりである。いつの世も同じ。民衆はお上の決め事に振り回されっぱなしではなのではないか。景気回復ということで、貸付金利を下げたとしても、一方で増税とはなんのこっちゃである。しがないサラリーマン親父のボヤキはともかくとして、この降って湧いた災難を打開する手立てを考えねばならない。
会戦の口火を切ったのは、真保だった。
「クラスの友達に、もうすぐお家を買うことになったのよ、て言ったんだ。そうしたら、みんな、凄いねって言ってくれて、遊びに来くよ、お祝いしようよ、待ち遠しいねって。だから、絶対買わなきゃいけないのよ。それに、私のお部屋の様子をどうしようか予想図を作ってもらってるのよ・・・。」
「無理だよな、真保、お前この数字の意味が分かるか。巷のダイエットのうたい文句じゃないけどな、これらの数値を一気に下げるなんて地獄の苦しみだぜ。」
「こら、海斗、まだ法律が決まった訳じゃないし、仮に決まったとしても実施までの準備期間があるはずよ。」
「それがさ、成立を前提に革新の奴等、来年春までに、各医療機関、診療所に国勢健康調査の体制を整え、受け入れるよう呼び掛けているんだってよ。そりゃあ、突然の儲け話に医者も乗ってくるよな。それまでの半年位で、真保がウエスト60台になると思うのかよ。それに、購入する家の名義は亮さんや亜紀子さんだろ、二人がトライアスロンに出るくらいのダイエットに挑戦するようじゃないといけないんじゃな~い。」
「なっ、何言い出すの、親を殺す気。だいたい、誰のお陰でここまで太れたのか分かっているの。」
「お二人の夜の制作活動の結果もたらされた、遺伝子の融合に因るものです。」
「うわーん、私は、お家が欲しいの。ママとニイのくだらない言い合いなんか、いらない!」
# ガガガガ ・・・・・・
「・・あ、ごめん。」
狙い通り。俺は、わざと立ち上がる時に、尻で椅子を押した。
「便所。」
さて、ケツ圧に耐えられるよう取り寄せた、ウレタン樹脂でできた特製便座に座って、取り合えず考えてみる。痩せるべきか、諦めるべきか、それが問題なのである。
はたして生まれてから野放しのこの身体を変えることが出来るのか?全く自信が無い。かといって、家の購入を諦めると我が家の心の絆を壊しかねない。ああ、俺は一体どうすれば良いんだろう。全ては、めちゃくちゃな事をする政治家のせいだ。何が健康消費税だ。あれ、???。
そして、10分後。ふう、出た。はあ、便秘症でもないのに、何でここまでブヨブヨなんだろうか。脂肪とは何か、一体どこからデブというのだろうか?まあ、どう線を引いても、俺は圏内だけど。デブ思う、故に、ここにデブが居る。
20分程して、俺はダイニングに戻った。一応、ある結論を出したからだ。
「それで、30台に乗せることが出来るの。」
「ああ、本人がその気になってくればね。」
「ねえ、ママ、私の感じどうだった。」
「良い感じ、良い感じ、結構心に応えていたわよ。」
「真保、亮さんにはお前の言葉が一番効くんだよ、父親は娘に甘いと昔からの定説だからね、その調子で娘への思いやりに煽るんだぞ。」
「本当に、お家のためだもん、なんだったらキスってもいいわ。」
「うえ~、本気か?」
「あっ、戻って来たわよ。」