オフィスデスク
”いらっしゃいませ、お客様の入館データによりますと、42階フロア、株式会社T総合流通 完全効率化推進担当室となっておりますが宜しいでしょうか?”
「え、ああ、お願いします。」
”承知いたしました。それでは、上に参ります。”
# プシュー、プン クーウウウン
さあ、行くぞ!・・・なんて、激を飛ばしている余裕など無い。やっとこさの第1ステージクリアの安堵感で脳内は、真っ白である。すると、
# タカタタンターン タカタタンターン
『なんだなんだ?』
# S本総合トレーディングタワーにようこそ、本ビルに初めて来館したお客様には、目的の階に到達する間、本館に採用されておりますの世界最高の建築技術及びビル管理機能をご案内しております。このビルは、高層でありながら、最上階までの気圧及び重力までも寸分の狂いもなく地上と同じ基準に設定されております。また、リニアスタビライズド工法による建築で、どのような地震に対しても全く震動を受けない構造となっております。更に、各フロアには、・・・
# チン、プシュー
# 目的の42階に到着しました。続きの案内をお聞きになりたい場合は、次回お乗りになりました際お申し付け下さい。
俺はエレベータからエントランスホールに降りた。
確かに昇って行く途中で、よくある車で山に登る時の様な気圧変化で耳の中が圧迫されることがなかった。ん~超ハイテク、なのだろうが、この接遇システムは余りにもお節介過ぎ、イラッと来てしまう。多分、ちょっと前に流行っていた”おもてなし”の類だ。何処かの接客対応マネージメント会社の監修を受けたプログラムが入っているんだろう。うちの会社でも、一時期、盛んに応対マナー研修をやっていたことがある。委託を受けたコミュニケーションナントカアドバイザーというババア、いや先生がやって来て、怪しい作り笑いを浮かべながら、言葉遣いは勿論、相手への目線の位置、好感をもたれる服装の選び方、印象を良くする歩き方や仕草を徹底的に矯正される。客の心中を読み取り、出来るだけ要望に応えられる方法を提案するコミュニケーション能力を身につけなさいと宣われる。高級ホテルのコンシェルジュ並のマナーを学ばせようとするのであるが、こんな過度な技能を世間一般のオッサン労働者達には必要に駈られてはいないのだ。そんなことは好きな奴がやれば良い、逆にうざったいと思っているのである。
『それにしても此処はどうなっているんだ?』
このホールから先が見えないのである。先にあるのは半径20メートル位の半円型の樹脂性の壁。そこには、部署の表示どころか出入口のドアさえ無い、ただののっぺりとした壁面である。
すると、何処からか人の声が聞こえてきた。
# 完全効率化推進部の浅沼ですが、外商2課の吉積係長ですね。
「あ・・、ハイそうです。」
# おたくの部署の効率化推進員の吉田さんより、貴方の来所の連絡を受けております。今からそちらに参りますので。
『おお、返事があった、しかし、いったい何処から出て来るのだ?』
すると、何かの器械が移動して来る音であろうか?
# フンフンフンフン
『オオ?』
見たことも無い、馬鹿デカイ物体。樹脂の壁の中からヌ~と現れたのだ。
『おふぃいすでいすくかあ?』
# フンフンフンフン プシュー
確かに巨大な事務机であるが、フォークリフトのような車両に積載されて自走している。またカプセル状のオフィスデスクには上部を囲うように3台のディスプレイが備わって、さながら戦闘機のコックピットである。そのため中の乗員の姿は判らない。
『おっ』
# クククン
ゆっくりと降り口ドアにあるディスプレイがガルウイングドアの様に浮上した。そして、そこから降りようとする膝下の足先がスラリと、あるなまめかしい、はっとするような乳白色のふくらはぎが見え・・・見え・・・う、ぶっ太い、モビ××-ツだった。
「ふーふー。」
『お供え餅が歩いて来る。』
俺が言うのもなんだけど、そう思わせる巨デブ眼がね女子が眼前に降り立った。




