進路確定
「良かろう、ミーがキャップに代わってブヒ夫に答えてあげよう。姫には、俗世間の仕事の生活は肌に合わぬのだ。姫がスーパーのレジ打ちをしたり、事務所の電話番をしているところが想像できるか?」
「・・・出来ませぬでごさります。」
「そうだろう、今まで姫として信徒に支えられてきた御身から、直ちに庶民への転身など出来ぬのだ。この現代資本主義の社会構造とは、働いている族と働いていない族がバランスよく存在しているのだ。これが絶妙に入れ代わることによって存続することが出来ているのである。それがどちらかに偏っていると、社会構造は崩壊してしまうのだ。つまり、働いている者もいつかは疲労や老いによって働かない者に変換する時が来るからだ。そして中には、働けない者が居る。これは、働けるまでに社会が支えていく他は無いのだよ。それが、今のミクリン様である。」
「ほお、さすが社会学科の大学院卒のガリツル、高学歴なことおっしゃるダワネ。それで、おぬしはどの種族になるのかえ。」
「私めですか?・・・・働きたくない者でござる。」
# ドワハハハ
「オチがあったのですな。」
「取り合えず、姫にはキャップの母船に身を移して、少しずつ俗世の水に慣れていただくのだ。」
「ホウホウ、残念でございますが分かりんした。それで、他の皆様方はどうなされるのでありますか?」
「あちきは、定職探しをするかのお。」
# まだ、決めておらぬのお
「芸を続ける方は居ないのでしょうか?」
「ん~、もう、ミクリン姫への奉仕の舞が身についてしまっているので、他に移ると異端者扱いされてしまうでござる。そう簡単には形を変えられないところがヲタ芸の真髄でもありまする。」
「信徒の皆、俺の勝手な振る舞い、誠に申し訳ない。」
「いえいえ、たとえこれで活動が終わったにしろ、このチームで培ってきた熱いハートは失いませんぜ。特にブヒ夫、お前はこれからまだまだ色んな事が出来る歳だからねえ。まず、大学生になるぞよ。さすれば拝礼の技を復活し、学生達に布教を始めることも出来る。新たなミクリン様を見つけ出すも良しぞよ。
」
「本当でござるですか?大学生は、そんなことも出来るんでありんすか。」
「ああ、大学生でまともに勉強している奴なんか一握りだぞよ。それに学生という印籠は、何をやってても世間には免罪符、大義名分なるぞよ。」
「でも、学期末試験や卒業論文がありんすよね。」
「そんなもん代々からある解答ノートをコピーして、いくつかの研究論文をミックスして書けばおしまいじゃ。ワチキなど、教授の出した本を買った領収書を解答用紙に糊付けしといたら単位をくれたぞな。」
# へえ、そりゃひどい大学だなあ
「超ぬるま湯の生活にふやけてしまうその他大勢の族に比べれば、更なる芸の高みを目指す探求の生活は有意義な学生時代となるぞよ。」
「そうかあ、フヨヨヨヨ、大学生になれば、ミクリン様を復活させ、礼拝の儀を始めるのかあ。」
「そうぞよ、やるぞよ。」
# うひょおおおおお!
どのようなものであっても、自らの進む路がハッキリと見極めるは稀である。これで、海斗の当面の人生の道程はヲタ芸と決まったようなものであった。亜紀子との確執は今後も続くのであろうが、俺は引きこもるよりはマシだと考える。しかし、こいつには全く減量のことは眼中に無いのかと思うと頑張っている俺としては淋しいかぎりである。
さて、真保の現況も気になるところであるが、一旦ダンジョン攻略に戻るとしたい。
結局、デブという理由だけであの捻くれコンピュータの目論みが叶うはずもなかった。受付ステージは、クリアすることとなる。ついに俺は、魔界の城の懐に潜入したのである。上階に行くエレベータに乗っていた。




