絶対の2台?
「じゃあお互いの判断が違った場合、どうなるんですか?」
「そんなことは有り得ません。2台の判断は絶対ですから。もしもという概念は、コンピュータには存在しませんのでご安心下さい。それとも、当ビルのシステムに何かご不満でも。」
『ああ、そうだよ。』
ガツンと言いたいところであるが、言ってしまえば、そこでゲームオーバー。今まで我慢して進めてきたことがふいになる。
「いえいえ、完全なる名器2台に認証確認されていると聞いて安心しました。それでは、入力します。」
『ムムム、ンン、ムム』
慎重に慎重に、押す前に、押しながら、押し終えて、頭で復唱しながら記号番号を押すのである。
『ピー、よん、はち、エー、エフ、エム、エフ、ご、、よし。』
「押しました。」
「はい、ケインズが正しいと認証しました。それでは、もう一つのパスワードを入力下さい。」
「分かりました。」
今度は、捻くれマルクスである、更に慎重をきさねばならない。
『落ち着け、お前なら出来る、お前なら。』
心なしか指が震えている様な気がする。
『イー、ダブリュ、ティー、ティー、エヌ、エフ、きゅう、ダブリュ、と』
「入力しました。」
「マルクスが確認しております。」
能面お嬢が、受付に備えているシステム受信用のディスプレイを見ている。
このフロアには、誰もいない。緊張感が静寂に煽られる。耳の中でキーンと音がしている。
# ・・・・・
時間が掛かっている。番号は3度は見返した、”間違えようがない”と思う。
# ・・・・・
検査や検閲は心臓に悪いもんである。つまり小心者であるということ。
こういった奴である。
血圧測定で、心拍数が上がるのを押さえられない。
運転中にパトカーを発見すると、うろたえる。
横で小便されると、オシッコが出せなくなる。
合コンでは、ブスにしか話が出来ない。
自慢話は、決まって誰も知らない過去の武勇伝である。
他人の悪口でしか笑いが取れず、自らワハハハと合いの手を入れる。
休日の過ごし方は、パチンコかメシ屋である。
クシャミだけは、やたらに声がデカイ。
近くで誰かがヒソヒソ話をしていると、自分の悪口じゃないかと思う。
まだまだあるが、俺は、正直殆どカバーしている。
『それにしても、時間がかかるな。』
「あのー、それで認証は?」
「あ、その、今、両コンピュータで調整になっていまして。」
「調整って?」
「このようなことは初めてなんですが、2台が協議中なんです。」
なんだよ、舌の根の乾かぬ内にもう前言撤回である。”絶対ですから”、”お疑いになられるのですか”よう言うたわい。
「協議中ですか?パスワードの正誤についてですか?」
「適正かどうか・・・ですね。」
ふざけた返答である。ここは、能面お嬢に攻撃を掛ける。
「あちゃー、何処かの番号が前後してましたかね、それとも重複してましたか?僕ってそそっかしいからな、厳しいチェックでちょっと緊張してますからやっちゃったかな。」
こういう時はとぼけること、がより陰湿なのである。
「・・・・いえ、正解しています。」
『そら来た。』
「ふ~ん、よく分からないんですけどね、当然説明して頂けるんですよね。」
能面お嬢が眉をひそめている、なかなか良い光景である。




