パパは、異常よ
「ちょっとな、職場の部下の一人が、めちゃくちゃな税だって鼻息まじりに言っていたんだよ。でも、まさか法案提出になるとはな。俺は、必ず廃案になると思っている。」
「でもパパ、もし法律が成立したら。」
一瞬、リビングの中が、無音の状態になった。緊張が走るってやつだ。賑やかではないが、我が家は会話が絶えることはない。デブからお喋りを取ると、精肉工場倉庫の熟成肉だからな。
「そ、そうだな、まずいことになるな。それで俺に体重計に乗れって言ったんだ。それで、実際にはどの位の増税になんだろうなあ。」
「海斗、計算した紙持って来て話してよ。」
「りょ!」
コイツは息子なんだが、俺から見ても、かなりイケてないデブボーイである。まあ、言っちゃあなんだが、俺と同様、色の無い青春時代を送るのがほぼ確定だ。そう弁えているのか分からんが、キモオタ街道を激走している。成績はパッとしないのに、妙に理屈っぽい。これでよくイジメに合わないのが不思議だ。
「ああ、関連サイトとフリーのブログから、確証的な情報を取り出すのに結構時間かかったけどね。この税率の計算基準は、仮称、国勢健康調査の根拠データから抽出された内臓脂肪率、BMI、血糖値、血圧の各標準偏差からどの位乖離しているかで決まるんだ。革新自由党の公開ページに税率の予想計算例を載せてたんで、PCに亮さん、亜希子さん、真保、そして、僕、各個人別にプログラムしてみたんだ。皆に、計算表を見せても分かんないだろうから、その結果を書き出したのがこれ。」
と、リビングのテーブルにあった紙を、前に出した。確かに、横書きで俺、カミさん、海斗、真保の順に、上の項目にそれぞれのチェック項目と標準偏差値、そして、その下に各人の数値と乖離値が書かれてあった。
「・・・ふーん。」
「パパ、何がふーんなのよ。これを見て、驚かないとだめよ。」
いやあ、予測通り、素晴らしいデブ度を示した実績値が並んでいる。ここまでくると、オイ、みんな、将来の健康を考えて、なんとかしないとな、なんて言っても全く説得力無いレベルである。
「驚くって、皆、よくここまで太ったな、ってか。」
「あーあ、パパは、その程度までなのよね。海斗、もうちょっと具体的に言わないといけないわ、ほら、説明、セツメイ。」
「ああ、分かった。それじゃあ亮さん、ここを良く見て。」
なんでお前は、いつも親を名指しで呼ぶんだと思いながら、指した記述の数字を見た。
「40、37、36と、俺の所が空いてるけど、これは?何の偏差値?」
「そして、亮さんが、これっと・・。」
海斗が、俺の所に書いた数字は、47。
「ええ!パパこれなの、信じられない!」
「明日から、絶食、決まりだね。」
何を皆、騒いでいるのかは何と無く分かるのだが、有り得ない程の数字なのだろうか。
「これって、俺の負担なの?」
「当たり前じゃない、パパは、異常よ、肉の着き過ぎ。ひょっとすると私が1番かと思ってたらやっぱりね。」
「むっ、ママ、随分ばっさりと言ってくれるじゃないか。」
「だって、パパはいつも、この身体はデブに見えるが、中の方は筋肉なんだよ。贅肉が着くには、それなりの筋肉がないと支えられないからな。会社の健康診断では、内臓脂肪率はそれ程じゃないんだぞ。見た目で判断しちゃ駄目だ、って言ってたじゃない。お酒もいっぱい飲むし、一度人間ドック受けた方が良いんじゃない。」
「亮さん、この内臓脂肪率では、脂肪肝に成っているのではないかと思われますが。」
「そうよ、パパ、脂肪肝はとってもマジヤバなんだよ。肝硬変、糖尿病になっちゃうよ。」




