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健やかなる日々

「それは、自分の世界観の中でしょう。今回は、世の中が変わるくらいの次元ですよ。」

「大袈裟だなあ。まさに革命が起こるようなこと言うなあ。」

「革命・・やっぱりそう思います?」

「えっ、まじそう思ってるの?アハハハ、平穏な21世紀でございますよ。我が国は、軍隊もありませんからね。ほら、こうやって好きな肉をたらふく食える時代にですよ、敢えて変えようとすることこそ愚かな行為。それに、今までに体制に反旗をひるがえしてきた者達にデブはいないからな、メタボ中年が結束したところで、安保闘争みたいなことが起こせるわけないし。」

「やっぱりデブは、ぬるま湯体質から抜け出せないですよね。俺もそう思います。まず、攻撃はデブからかあ。」

「だからさあ、伊東ちゃん、考え過ぎ、考え過ぎだって。そのKという人も世間を煽るようなこと言ってるだけだよ。」

「俺の話はですね。」

「ほら、よくいるじゃない、過激なこと言って興味を惹こうとする社会評論家がさあ。第3次世界大戦の勃発の恐れとか、最重要警戒国家からの核攻撃の脅威とか、簡単に言っちゃう奴。」

「俺は、ですね。」

「この店は、最高だよ。これからもちょくちょく来ようかな。ほら、通い続けてるフィットネスクラブの甲斐あってさ、体重はそうでもないけど、内臓脂肪が減少に向かっているんだよ。」

「あの、俺は。」

「超変わり者だけど、インストラクターのムーさんが、体質改善傾向に入ったから、少しくらいは肉食っても良いって言ってたからな。各週に1回くらいなら良いかな。」

「会社辞めようと、考えてるんです!」

「エエエエエ!!!!!?????」

 結局は、そこだった。

 まあ、こんなしがない会社に定年まで勤めたくないのは良く分る。独身で、50の声が聞こえて来て、このままジジイになっていくことをどうかと考えたんだろうな。俺も身軽な状態だったなら、そうするかもしれない。この先の人生はだいたい想像がつく。子供を成人させたら、今度は親の介護、それが終わった頃には、定年で家のローンのために再就職、その後に僅かな年金で老人クラブの日常生活だ。人生何が起こるか分らないなんて妄想を描くだけで終わるというもの。いったい俺は何のために生きているのだろうと考えたところで何も出来ない。伊東の人生感覚は、常識ずれはしていたものの、ちょっと応援したいと思った。

 人生の半ばを過ぎるとこれからの将来が見えてきてしまう。たいていの大人達は憂鬱な生活を強いられている。しかしそれとは裏腹に、若者達は健やかなる日々である。

「ハイハイ、サイドステップして、ストローク、次にアプローチショット、そしてボレーで決めましょう。」

# パコーン、パコーン

「田中さーん、もっと踏み込んで、葛西さん、ナイスショット。」

# パコーン、パコーン

「ハイ、これでラストでーす、一回お水を飲みましょう、次のメニューの説明をしまーす。」

 真保は、初中級のテニススクールでレッスンを受けていた。最初は、フィットネスの体験プログラムであったのが、ご存知の理由をきっかけに買ったラケットのみならず、その要求は増長し、シューズ、ウェア、そしてラケットバッグまで新調するに至ったのである。そしてこの熱の入れようである。

「森田コーチ、森田コーチ、アプローチした後、直ぐ前に出れないんですけど、どうしてかな。」

「ハイハイ、それはですね、アプローチショットとは、打つというより、ボールを運ぶって感じなんですよ。復習にデモしますから良く見てて下さい。吉沢君、ボール出してくれる。」

 テニスコーチが、向かいのコートに行くと、他の生徒の女性が声を掛けてきた。

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