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不審な動き

「こんな素晴らしい店、黙っていたなんてずるいよな。」

「アハハハハ、別に黙っていたわけじゃないですけどね。家族のために頑張るお父さんしてるところに言い出し難くかったんですよ。」

 ガウガウガウ、ガウガウガウガウ。俺は、腹を空かした猛獣。壮大なアフリカのサバンナ、地平線いちえんに広がるブッシュは闇真に吸い込まれ、赤く染まった夕空の中に沈殿しているように浮かぶ太陽が美しい。俺は、腹を空かしている猛獣。そんな見事な光景も全く気にしない。仕留めた獲物の肉をひたすら食らい込み続けるライオンになっている、・・・・いやデブだな。

「ところで、もういいですかね。」

「ん?、何が?」

「やっぱりこれだ、話ですよ、俺の話。」

「あ、ああそうだったよね。」

「あ~あ、この店で、なんて言ったのが失敗だったのか。」

「いや、ベストですよ、ベストチョイス。デブ同志の話し合いにはもってこい、・・・の肉の美味さ。」

「そっちだよなあ。」

「まあいいじゃない、ん~このロース肉の芳醇な噛み応え、なんて贅沢な感触。それで、SM担当課が何をやらかそうとしているんだい?」

「ああ、それそれ。いや、取り合えずその話からやりますかね。」

「なんだ、勿体振ってるの?どうせ理不尽なデブチェックでもやろうと思っているんだろ?」

「ええそうですよ、先ず身辺の検査があるそうで。具体的には、机や鞄の中の点検。お菓子等の食べ物を常備していないか抜き打ちにやるそうです。それから、一週間の生活の過ごし方を24時間別に表したレポートを提出。不規則で、何度も飲食をしていないか確認ですよ。」

「なんじゃそりゃ、小学生の夏休みの時間割表じゃねえか。そういえば、トイレの横にある休憩所や会社敷地内にある外の自販機の内容がが全部水か茶になっていた、そこまでやるか。」

「それにですね、警備カメラを増設して、守衛室を経由して推進課からもモニターしているらしいですよ。囚人扱いですね。それに・・・。」

「なんだ、まだあるの?」

「ええ、BMIと体脂肪率を毎日記録するようになりました。会社エントランスに計測器が置いてありますから、出勤時に必ず計測台に乗って、感知バーを握れとのことですよ。」

「それで、改善傾向が見られるい時は、指導を受けるってか?」

「御名答です。」

「それから、これは吉田ちゃんから極秘に入手した情報ですが。」

「極秘?随分物々しい表現だね。」

「各課にインテリジェンスオフィサーがいるそうです。」

「インテリなんとか?なんじゃそれは?」

「隠密の情報員ですよ。各従業員達がデブ改善に適正な言動と行動を取っているかを監視し、推進課へ定期的に状況を報告するそうです。」

「じゃあ、誰が任命されているか分らないってこと?」

「人事担当も、受任者の内容、人数さえも知らないそうです。」

「そうか・・・、ところで。」

「なんですか?」

「次は、王道のバラを頼んで良いかな。やっぱり叉焼は、ここだと思っているんだ。そして、次にモモ、それが終わったらヒレに挑戦。」

「・・・。」

 この話は、確かに俺達デブ社員への恐るべき虐めである。しかし、SM部長の気まぐれな企画事業、そんなに自社の従業員を苦しめたところで仕事に支障をきたし利益を生むという基本的な目的への志気を鎮静化させてしまうのではないか?そんな俺の疑問に対し、伊東は思わぬ事柄を口にし始めた。

# む、グププププー、ゲホゲホゲホ

「水、水・・・、ふう、死ぬかと思った・・・ど偉いことが起きる?何それ?」

「そう、我が社でどうも水面下で何か怪しい不審な動きがあるんですよ。」

「だからデブ粛正だろ?」

「違いますよ、それは表面化してますよね、もっと大規模なことらしいです。」

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