デブネタ
「じゃあ、どういうこと。っあ、もうこれ焼けてる。パパ、それで。」
まあ、俺の学生時代の話など、面白くも何ともないだろうが、子供が先を聞いてくれるのは、一応親として認めてくれていると思うのである。
「それで、それで。」
「ああ、それでな、女の子は待っていた。そこで言われたことが、自分の親戚がトンカツ屋をやっている。お願いだから、もう行かないで欲しいと頼まれたんだよ。」
「ええ、どうして、解った、いっぱい食べていたからでしょう。」
「そうそう、ご飯おかわりし放題の店で、食べ過ぎて嫌われたんじゃない。」
「ブッブー、違います。」
「解った、時間制限の早食い無料で、カモにしていた。」
「お前達、俺はそんなに食っているか?」
「食ってる、食ってる。でも、違うの?正解は?」
「俺は、直ぐ何の事か分かったんで、そうなんだ、じゃあ、もう行かないよ、と断って恥ずかしくて逃げるようにその場から離れたよ。」
「何々、どういうことか早く言ってよ。」
「実は、店の椅子をもう3回も破壊していたからな。」
# アーハハハ
「そうかぁ、このダイニングの椅子も特別に買ったんだもんね。パパの重量に耐えられる物探してね。」
「あーあ、太ってると、普通の椅子ってのが使えないことが沢山あるよ。昔、友達ん家の近くの図書館に行った時、少し小さな椅子だったんだ。座ったら、ボンって音がして背もたれが取れて落ちたのは凄く恥ずかしかったよ。」
「ママなんかもっと凄いよ。この前行きつけの美容院が休みだったんで、別の所に行ったんだけど、椅子に座って美容師さんがさあ始めようとするとね、何だかモゾモゾしているのよ。それで、椅子の調子が悪いので、すみませんが横に移って頂けますか、て言われてね、座り直してみたら、また、あれ、あれって言ってるのよ。」
「どういうことだ?」
「ほら、高さ調節のペダルよ、踏んでも持ち上がらなかったみたいよ。」
「ムハハハ、そうかぁ、皆、結構やってるなあ。」
それからも、色々な最近の自分の生活で起こってる事を好き勝手に喋っている。それには当然の如く、デブネタが絡んでいるのだ。そうして、楽しい焼き肉も終えて、腹治めの飯を食って、食後のデザート菓子にありつくのである。
特売のシュークリームとお茶がテーブルに並んだ。
「ところで、メールで送ってきた今後の対策ってなんだ。」
そう言いながら、手づかみのシュークリームを上からがぶっと一口いく。
「そうなのよ、パパ、大変なことになったじゃない。」
「ん、なんだ。誰か親戚で死んだか?お袋の入っている老人ホームから何か言っては来てないし、この前ママの実家に行ってきたばかりで、ご両親ともピンピンしていたよな。」
「パパ、違うよ、今日、テレビニュース見たよね。」
「はあ?、テレビか、今日は外回りでお客さんとずっと話し合ってたんで、見てないな。」
「デブ税が、決まりそうなんだよ。」
「デブゼイ?でぶ?税?あー!」
俺は、ケツから電流が一瞬、頭に走り抜けたような驚きが走った。
「昼のテレビのニュースで、健康消費税法案が特別委員会の審議を通って、ついに議会に提出されることになったそうよ。」
「ええっ!、マジかよ!、そんなデブ虐め税が許されるのかよ。どうして通されるのか、理由を聞きたいもんだね。」
「日本人も、政府に頼って行く指向を変えるべき時代が来たそうよ。社会的なリスクを抱える者は、その負担を度合いに応じるべきであるって。高齢化問題、少子化問題と並び国民の肥満問題は将来の社会経済に大きなリスクとなるから、それを補う財源確保が必要だそうよ。」
「それで、デブ度に応じて税負担を重くするというやつだろ。」
「あら、知ってるんじゃない。」