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ぼんくら

「アハハハ、係長、俺もそうだった、慣れるまで時間がかかるからなあ。此処の店長、サフサフゲリシクボさんだよ。」

「なに?その名前どう読めば良いの?サフサさん?リシクボさん?」

「じゃあ、久保さんで」

「久保さん?ということは。」

「そう、彼は日系3世のブラジル人なんですよ。」

「へえ、ブラジルの人なんだ。でも、なんで日本でラーメン屋を始めたんだい。」

「それは、ラーメン屋ですから。」

「むこうでラーメン屋やってたんだよね、だからって日本じゃ上手くやっていけるか分からないよね。」

「だからずっとラーメン屋なんですよ。」

「言ってることが全然分からないんだけど。」

「係長は、直ぐくどくなるんだから。つまり、彼の祖父さんの代で中華屋を始めて、新天地に夢を託してブラジルに移民したんですよ。そしてその子、つまり父ちゃんが後を継いで彼に到る、3世代味を受け継いできた生粋のラーメン屋、簡単なことですよ。」

「むっ、そんな馬鹿にしたような言い方しなくてもいいんじゃないの?此処に来たのも伊東ちゃんが話したいって誘ったからわざわざ来たのに。」

「むむっ、すんません、俺ってデリカシーの無い言い方するって、分かってるじゃないですか、謝りますよ。お詫びに、此処は奢りますから。」

「いや、そんなつもりで言ったんじゃないけどさ。多分腹が空いてイラツイテいるんだよ、それに・・・。」

「それにって?」

「いや、何でもない、ちょっとカミさんのことでむしゃくしゃしていたこともあってかな。」

「家族がいると大変ですよね。そう言ってくださいよ、マスター、早目にね。」

# オウケイ、チョイウイオマチ

 ちゃあしゅうらすこ麺とはいかなる物か、これまでの流れで概ねのことは推し測れるであろう。

『叉焼麺とシュラスコだ!』

 つい心の中で豪語してしまった。チャイニーズとブラジリアンの共演、約1万8千キロの地理的にも対極にある国の肉汁文化、それを賢い日本人の創作力で融合させたとは、壮大な浪漫を感じさせる?秀作料理を期待させる。

「ところで吉積さん、話と言うのはですね。」

 伊東キリギリスは、頭から仕事が離れれば名で呼ぶようになる。確かに彼は俺より2つ年上であり、入社も早い。そして、学歴も無名私立の俺と違って、有名国立大で優秀である。我が国は学歴社会と言われているが、それが顕著に問われるのは上層の世界でのこと。巷の世界になると、学歴は殆ど意味をなさなくなっている。そんな事にこだわるのは学歴に劣等感がある奴と子供に勉強を強要するバカ親ぐらいである。彼は、普通に上を目指せば、部下の位置にいるような人間ではない。それでも学才のある彼は、本質的に俺とは何か違うような気がする。つまり、物事に対する考え方が深く、多彩なのである。俺の様なぼんくらには、思いもつかないことを言う時がある。そして、ぼんくらはそれを認めたくないがために、妙に上から目線の意識を取ろうとする。プライドが高い奴ほど頭が悪いのである。

「あ、ああ、それが本題だよね。伊東ちゃんが折り入っての話って、マジかよ、か、ふーんそうなんだ、の両極端だもんね。」

「そりゃあ失礼しましたね、くだらない話ばかりで。」

「アハハ、それだけインパクトがあるということさ、さて、何の話なのかな。」

「なんか、からかわれている気がするんですけど、まあ、いいや。さて、話というのはですね、美奈子嬢の下僕、SM部デブ粛正課の犬と化した吉田ちゃんからの情報なんですよ。」

「事業企画推進部完全能率化推進担当課じゃなかったっけ。」

「そんなまどろっこしい部署名なんか、はなっから憶えませんよ。」

「アハハハ、そりゃそうだ。」

「で、来週から厳しいデブチェックが始まるそうですよ。」

「なに、またうちの課長、部課長会の会議資料を机に積み上げたままだな、全くしようがないな。」

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