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ウ×コ

<何のことですか?>

「いや、何でもないよ、じゃあS橋駅のYビル前で。」

<エヘヘ、宜しくです。多分先でしょうから待ってます。>

 かくして、不良中年キリギリスのいかがわしい誘いの真相を解明するため、仕方なく肉汁城に向かったのである。

 落ち合ってから10分程、駅裏の飲み屋が密集する路地を歩いて行く。するとその店は現れた。

『うおッ、な、なんだこの店は?山宝楼?・・・ってラーメン屋なの?』

 とにかくその店構えが、えげつない。屋根は真っ黄色、外壁は緑彩色、周囲には似たような色の旗が沢山なびいている。

「驚きました?オープンして未だ日が浅いんですけどね、誰も此処がラーメン屋だとは思わないですよね。でも、じきに人気の店になること間違いなし。さあ、入りますか。」

 ラーメン屋の定番、暖簾のかかった入り口。それでも、かなり違和感があることは諌めない。俗に”目立てば良いってもんじゃないんだよ”って言いたくなる店である。

# オラ、ベインヴィンド! オラ! オラ! ベインヴィンド!

 来店の挨拶か?いきなりよく分らない外国語が勢いよく飛び交う。圧倒されるというか、胸をはだけまくったオゲレツなフリル付きシャツとパツパツモッコリのレザーパンツの男等が出迎えなのだ。妖しい?、いや特定の人種には嬉しいお姿である。

「よ、オラ!ジャマ!」

「伊東さん、お待ちしておりました。いつもの席にどうぞ。」

 ”いつも”ということは、”イケてる店、見つけた”は、信用できるのか?この伊東というキリギリスは、常日頃、結構ビッグマウスなところがある。たいしたことでなくても、こんなに大変だったとか、こんなにやったとか、周りに言いまくっている。誰も尋ねていないのに自画自賛をあえて言う奴は、話半分である。以前、巷でも大絶賛と彼から推奨されて行ったピザ屋にはまいったことがある。念のためネットの評判を確認して口コミも多かったので行ってみたら、(客席が)狭い、(値段が)高い、(接客が)酷いの三ツ星NG評価店であった。こういうことは、実によくあることだ。人の深層心理は面白いものである。学説で、自分の行動を意識的に制御できるのはほんの1割程度だという。権威ある書物や有名人のコメントによる高評価かあれば、なんじゃこりゃのものを素晴らしいと思い込んでしまうということである。つまり、タイヤの本に載るだけで、絶品の味の店と感じるのである。しかしこの店は、そんな本とは当然無縁であろう。現時点では、キリギリスの高評価が微塵も感じられない疑惑ラーメン屋である。

 俺達は、奥の厨房前のカウンター席に着いた。すると、カウンター越しから、黒々とした太い腕がぬ~っと現れた。

「イラスシェエィ、ウイトウサン。」

『う、ウ×コ?』

 見ると浅黒い超ブーデー顔の禿げ頭のおっさん。多分愛想良くしているのだろう、挨拶を掛けてきた。というのも、あまりにもの贅肉が顔に重なり寄っているので、表情が分らない。怒っていてもこの顔なんだろう。デブ顔は大別すると3種類に分かれる。全体的に膨らんだ風船顔、額や頬に肉が盛り上がってしまったチャウチャウ犬顔、そして三角柱状に横に拡がったガマガエル顔である。このおっさんは、黒く禿げの3番目のデブ顔、だからウ×コなのだ。五十歩百歩だろうが、一応風船顔の俺は表情は分かるはず。

 ウ×コ顔の解説はさておき、おっさんは、そのフランクフルトのようなパツパツの指で、俺達の前にすっとおしぼりを2つ置いた。

「おう、今日は俺の上司を連れて来た、吉積さんだ。」

「ジョウシ?」

「ああ、俺のボスだ。」

「オオ、エイライシトダィヨネ。ヨロシイクオネダイシイマス。ヴアタスイハコゥコゥノオマィスターディスウ。」

『???』

 殆ど聞き取れない。外国人がたどたどしく日本語を喋っていることだけではない。テレビで見る関取やプロレスラーにたまにいる、掠れて、こもりにこもっている声なのだ。

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