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女は本能的に計算する

「ほうって頷いてばっかりじゃないの。」

「すみませんが、もう少し解りやすくご説明して頂けないでしょうか。」

「女はね、自分を意識してもらいたいと願う人が現れた時、目覚めるのよ。」

「目覚める?」

「そう、美しく成りたいと思うのよねえ。」

「ふ~ん、なんかありきたりな化粧品のCMの台詞みたいだな。お前もそういう時があったってことか。」

「喧嘩売ってるの?」

 すると、カウンターのスピーカーから突然人の声が聞こえてきた。

# 人とは、色々な苦しみや問題を抱えて生きているのです。自分の悩みをどうしたら良いか話してみませんか?テレホンお悩み相談の時間です。ご応募頂いた視聴者の皆様の中から選ばれた方の悩みについて、当ラジオがお頼みした専門家の先生に解決の糸口となるようなご意見を受ける番組です。さて、本日の方は32歳の主婦K美さん、抱える悩みは、夫が人に対する態度が余りにも横柄で心配だということです。たとえ自分が明らかに悪いことをしたとしても、他人から注意されるとむきになって言い返してしまうということです。

K美さん、ご主人は自分のことをそういう性格だとご存じなんですか?

# いいえ、自分は真っ当な性格だと言い張るんです。この前、公園の駐車場で子供が移動する車を横切って危なかったんですけど、子供を看てないことを棚に上げて、運転手の方に”お前が気を配ってないからいけないんだ”と逆ギレしたんですよ。相手が優しい人だったから良かったんですけど、いつかは酷い目に遭うんじゃないかと。

# 全くしょうがないご主人ですよね。自分の非も相手の責任と言い張る自己中心の性格の人、確かに居ますけど、J大寺先生、いかがですか?

# そうですよなあ、こういう性格の人は、いつかは家族に迷惑をかけてしまいますよ。モラハラの常習者になりますよ。過去に相談を受けた方で、こういう人が居たんですよ。”俺は働くのがいやなので、いつも何処かの金のかからない所で暇をつぶしている。ところが今度、第1、3木曜日が図書館の休館日になるそうだ。市民である俺の意見も聞くこともなく勝手に決めるとはどういうことだ、休まないようにさせるにはどうしたら良いか”って言うんですよ。こういう社会悪人は、同じ社会悪人とガチンコになるまで治らないんですよ、謂わば、悪人軍人将棋によってですな・・・

 なんじゃこのラジオ番組は?、それに、カウンセラーのアドバイスも訳が分らない。自己中のクソ旦那か、こんな奴、うちの会社にも居るな。ダメ人間について語ったところで、何処が面白いのだろうか、そして、こんなゲロ番組をこのおばさんは好きなのか、ということはあの麗しのエプロン娘じゃないよな。

「この番組、最高に面白いのよね。夕飯のメニューを色々な特売のチラシ見ながら考えている時、いつも聞いてるのよ。」

「えっ?お前、これ聞いてるんだ。」

「そうよ、毎日楽しみにしてるのよ、それが何か。」

「・・・・。」

 人の嗜好とは千差万別、そして荒唐無稽に作用し、奇々怪々な根拠がある。

誰一人、完璧に一致してはいない。長年苦楽を共にして来た?カミさんであっても、その好みは全く理解できていない。物の見方も価値観でも、いつも二人は異種格闘技状態。いわゆる水と油の様であるのに、それでも、何らかの形で関わり合って行けるのは不思議なものだ。性格の不一致?そんなもん当たり前、それを離婚の理由にするのは、ちゃんちゃら可笑しなことだ。

「それでさ、真保のことになるけど・・・。」

「あ、そうだったわね・・・つまり、女としてしたたかに成り始めたのよ。」

「したたか?あの歳でか?まだ考えが未熟なんだろう。単に男の子に興味を持っただけじゃないの?」

「女は本能的に計算するのよ。この人と付き合って自分に得るものがあるかってね。ほら、動物だって雌は、強い雄を求めるじゃないの。」

「雌?なんだ、獣と一緒か?」

「弱肉強食の世界じゃ強いってことはが生活力があり、子孫を残せる確率が高いじゃないの。人間も同じ、強かったり賢かったり魅力ある男を選ぶために努力する、これは女の本能、性なのよ。」

「ん~、なんかお前の考え方、かなり偏ってないか?」

「どこが?変な事言ってないわよ。」

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