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狙い目

「え?、ああ、例の税政策の為か、最近新規会員の募集を停止してしまいましたね。ロビー内、フィットネスウエアが梅田駅構内の様に右往左往している程ですよ。」

「アハハハハ、梅田駅?、そりゃ凄いね。僕も若い頃、大阪支店への出張で降りたことがあるけど、確かに色んな所へ人が交錯して歩いているんだよね。そうか、この手の大手関連会社の営業益が急上昇している証拠だよな。ん~これからの狙い目であることは確かだなあ。」

「狙い目って、課長、株なんかやってましたっけ?」

「違う違う、来年の身の振り方だよ。いや~、うちの関連子会社に再就職しても給料3分の1でフルタイムの扱き使い様だろ、3,4年だったら絶対上昇気流に乗った所で働いた方が良いもんね。」

『コイツは駄目だ。今でもこの体たらくなのに、身の程を知らない勘違い親父だよな。』

「はあ、でもこういう所で働くには、我々では清掃や書類整理とかの雑務になるでしょうね。若い人が主力で接客している世界ですよ。」

「そういう既成概念にとらわれているから駄目なんだよ。これからは介護老人にならない為にも、もっと年配者が利用するようになってくるはずだね。そこ辺りの需要をカバーするためにも、相応のスタッフが必要となって来るはずだ。僕は、そこに目を付けているんだよ。」

 ハイハイそうですか。俺に尋ねておいて自論を展開してくるとは、カス人間だな。実行力の無い奴ほど、こういう独自理論に陥っているものだ。結局、無駄に考えたに終わるだろうな。

「良い所に目を付けていらっしゃいますね。消費税の追い風に乗って、ダイエットに関わる業界は、どんどん成長して景気が上がるのは間違いないと思いますよ。ところで、ちょっと先程言いました件に話を変えても宜しいですか?」

 こういう時は、相手の志向に同調するふりをして、さり気なく隙間に入りこむことである。付き合ってしまうのはタブーである。普段喋らない奴ほど溜め込んでいる場合は、一気に吐き出そうとする。いつ終わるか分らない苦痛な話題に時間を費やすだけである。

「あ、・・・そう、そのことだよね。新規担当課・・・確か、完全能率化推進担当課とか言ってたな。」

「その担当課って、来週立ち上がるって聞いたんですけど、ご存知ですよね?」

「ああ、そうだよ。先週、臨時部課長会議で説明されたけど。」

 マジかよ。用件が下りて来て対応するのは俺達だろう。お前のところで話を止めるか、本当に管理職なのか?

「それで、どのような内容なのか、教えて頂けないでしょうか。」

「そう、本当に知りたいの?」

「あ、当たり前ですよ!」

「・・・仕方ないな。」

 課長は、おもむろに腰をかがめて、ゴソゴソと机の下に手を伸ばしている。どうも、インサイドワゴンに何かを探しているようである。だいたい処理の書類などたいして無いのに、足元まで棚を設けているのがおかしい。

「これだな、これ、はい吉積君、これをあげるから目を通しておいてくれないか。」

『なんだ、我が社のパーフェクトなスリム化こそこれからの企業競争を制する。新たな歴史はここから始まる。完全能率化推進担当課の設置と業務内容。』

 俺の前に、くさいキャッチフレーズまで付いた新規担当課の業務マニュアルを無造作に置きやがった。しかも机の奥底に取り敢えずしまっておいたとは。

「どれくらいのレクチャーがあったんですか?」

「そうねえ、10分程かな、まあ、うちには直接関わりないと思うよ。」

『嘘つけ、関心が無いだけだろ。コイツの下に着いた部下達の苦労話が出回っているのが良く分る。』

「じゃあ、ちょっと拝見させていただきます。」

「あ、此処じゃなくて良いよ。この後色々書類を広げたいんでね。2部貰ってきてたから、持ってって良いよ。分らないところがあったら直接担当課に聞いてね・・・でさっき何話してたんだっけ?」

 やばい、思い出されない内に退散である。

「私も余り関心ないんです。部下達からどうしても教えてくれとせがまれましたんで、気が進まないんですけど、この後勉強させていただきますので。」

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