脅威の御目付課
「動き?って。」
「なんだ、係長には未だ話が行ってないんだ。」
「うちのSM部長が嬉々として立ち上げたEMPの事業検討事項がどうも本格化するそうだ。それで、早々に担当課が立ち上がるとのことなんだ。」
「ええっ、それ本当に?この前基本構想だって言ってたよね。俺、未だ課長から一言もそんなこと聞いてないよ。」
「あーあ、やっぱりだよね。あのしょぼくれ課長、もう来年定年だろう。やる気無し夫、会社の大事なんか全く関心ないもんな。この前なんか求人雑誌、何冊も持って来て、仕事中に引退後の仕事先の検討を一日中やってんだぜ。」
「それでそれで、いつからその担当課が始まるのか聞いてる?」
「来週。」
「えええええっ、マジ、そんな急なの?、普通、事業方針や実施の通知とかあってからじゃないの?」
「まあ、SM部長のことですからね。」
「事業説明とか、直前にやるのかな?まさかやらずに同時進行とか。」
「SM部長のことですからね。」
「どう考えても、強引なやり方だよな。」
「SM部長です。」
「伊東ちゃんは、それで納得してるの?」
「SMです。」
「あは、あは、係長と伊東先輩の掛け合いは、いつもながらにスピード感満載ですね。」
「吉田君、僕達を馬鹿にしてるでしょう。」
「そ、そんなことありませんよ。確かにこの担当課は、お二人にとって御目付、脅威の存在になっちゃいますよね、深く同情しています。」
「その言葉、ちっとも心に響いてこないな。そうだよな、本来の気持ちとは、どんなに話を聞いたり、状況を見たりしても、その実感は当事者とは絶対に違う。災害に遭った人達を、支援しようとすることは出来るが、それでもその苦しい気持ちを理解をすることは出来ないものさ。吉田ちゃんも、ガッツリ太ってみれば、俺達の切実な気持ちが分って来るよ。」
「ご遠慮させていただきます。」
「か~やっぱりね。」
「アハハハ、伊東、吉田の漫才も、なかなか良いね。」
「か~やっぱりですよね。伊東先輩」
「さて、おっさん達のグダグダ話でもうこの時間だ、そろそろ引き揚げますか。」
「伊東ちゃんも吉田君も午後は出だよね、まあ良いや、この後課長に新規担当課について説明してもらうことにしよう。」
「そうですよ、宜しくお願いしますよ。俺や係長だけじゃなく、社内のデブ族が粛正されることになるやもしれませんからね。」
「そんな大袈裟なんですか?」
「なんたってSMだからな。」
そうして、昼が終わって落ち着いた時間になって、机にへばり付いている課長の席に向かった。俺も何と無く気付いていたが、袖机の引き出しにあるファイル群は、やっぱり再就職の資料だったのか。思うに、どうしてこのやる気の無いおっさんが取り敢えず課長まで成れたのか、会社内の謎にもなっている。聞くところによると、課長には人並み外れた特技があるらしい。それが、会社と何の関係があるのか分らないが、それが昇進のきっかけとなっているということである。
「ん、何だい、吉積君。」
「教えて頂きたいことがありまして、さっき僕の部下から新しい担当課が来週立ち上がると聞きましたが。」
「ああ、あれか。そういえば、僕も君に聞きたいことがあったんだ。」
「はあ?」
予想だにしない切り返しの言葉である。課長から何かを聞かれることなどめったにない。
「君の行ってるスポーツクラブは繁盛しているの?」




