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何故、闘うのか

「ひゅー、・・・やった・・・私は・・・生きている、生き残ったんだよ!」

 闘技場は、静まり返っていた。そして、幾重もの流血の上に流血を被せた地面は、猛烈な異臭を放ち、一帯はその匂いが立ち込めている。俺も、彼女も獣の血に染まり、全身がドロドロに赤黒く、見分けがつかない。

 既に神剣はただのカーボン製の棒に変わっていた。いくら軽い?とはいえ、こんなに必死に、いや、嬉々狂乱に振り回せば、運動体質の欠片もない俺は、気付けばもう腕は上げようとすれば激痛が走る程萎えてしまっている。

『そうか、これで終わり・・だよな。周りにもう、遠くフィールドを見渡してもブタ、いや動いているものが見当たらない。・・・か、勝ったんだな。』

「お嬢さん、俺達は、勝ったんだよ!腕も上がらなくなったけど、これで終わったんだ!」

 達成感と充実感が全身に満たされた。俺はもう立っていられなくなり、その場にどっかりと腰を下ろした。

 すると、会場の何処からか始まったのだろう。

# ザン、ザン、ザン、ザン

 観客達の手拍子が始まりだしたのだ。

# ザン、ザン、ザン、ザン

 ああ、観客達の勝者に送る手拍子だ。素晴らしい闘いに賛美する響きだ。

「お嬢さん、さあ、皆に手を挙げて応えようじゃないか。俺の分も頼むよ。」

 そう彼女に、話し掛けた時だった。

# ザン、ザン、ザン あとひとり ザン、ザン、ザン あとひとり あとひとり 殺せ 殺せ あとひとり

 俺は、余りにも非情なこの声援に、再び憤りが沸いていた。そして、女剣闘士もどう反応しているか様子を見詰めていた。すると、彼女は俯いて俺に語りかけてきた。

「あと1人、グラディアトルが自由になれるには、最後の1人となることだよ。」

 こんなゲス達から与えられた自由など何の価値もないじゃないか、貴方もそう思うだろ?俺は、そう言わなかった。

「もう俺達、剣闘士側が勝ったんだろ、闘技会のシナリオでは終わりなんじゃないか?」

# 殺せ 殺せ 殺せ ザン、ザン、ザン

「うるせー、そんなに殺し合いを見たいんなら、自分達でやれ!」

 ゲスローマ人達に聞こえるはずもないが、俺は叫んでしまった。

「そうさ、私もそう思うさ。多分、英雄さんと闘っても勝てはしないだろうね。」

 思わぬ彼女からの言葉に、聞き返した。

「君は、俺と闘うつもりなのか?」

 すると、彼女は血だらけの頭をこくりと下げた。

『何故?何故なんだ。この娘も、人徳よりゲス達の欲望を選ぶのか?』

 単純な問いかけだった。

「死にたくないからかい?」

 すると彼女は、重々しくではあるが、その理由を連ね始める。

「グラディウスは、死を覚悟して臨むもの・・よね。私は、死ぬことは怖くはないさ。英雄さんが何故、この闘技会に出たのかは尋ねないけれど、自由にな

った私は家族や仲間を買うために闘っているんだ。」

「家族、仲間・・・買う?」

「ああ、英雄さんには、関心ないだろうけど、この闘技会に女が出てもまず勝てやしないだろう。誰も私が勝ち残るなんて思いはしない。だから私は今まで働いてきた金を全部私に賭けたんだよ。万一勝ち残ったなら、自由になった私は、同じ奴隷となった弟や妹、そして支えてくれた友人達をその大金で奴隷主から買うんだ。そして、故郷に戻って、そこで皆で静かに暮らすんだよ。4年前、私の村は、ローマ人達が攻めてきて、ひとたまりもなく潰された。戦士だった父や兄は、私達の村を守るため勇敢に闘って死んでいった。武術を教えてくれたのは父達。私も戦士としての誇りを持っている。ここで、神剣を持った一角の勇者と闘って負けても、皆、私のことを許してくれると信じてるわ。」

 女剣闘士の切実な心情が俺の心を貫いた。

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