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やっつけたぜ

「何言ってるのよ。アグラマス、危険な肉食獣よ。何せ、一日中、食ってばかりいる狂食の猛獣。少しでも空腹になると、落ち着きが無くなり、手当たり次第に生き物を襲う恐ろしい奴、多分、餌を与えられずに放されたよ。」

# ブウグ、ブグ、ブウグ

 確かに、倒された奴隷に凄い勢いで群がっている。しかし、俺は恐怖感を起こされないのだ。何故かって、それは、うちの会社のある社員に激似なのである。

『喋りブタ、須崎の群れだよ。』

 コイツはいつも仕事中に、メシ屋か自慢か芸能人の話ばかりしている。そのくせやたらに残業が多い。毎日ムシャムシャ食いながら生活なので、当然、贅肉が顔にまで波及し、鼻より頬っぺたの肉が盛り上がっている。妊婦のように腹がつき出ているのだが、ふざけたことに本人はこれを筋肉だと言い張っている。他人から運動するよう言われるのが嫌なのだろうか、学生時代は、サッカーをやっていたとのたまわれているが、同類の俺から見ても、子供の頃からの筋金入りデブに間違いない。10mも走ったことはないだろう。とにかく、喋りだすとつまらない話をブツブツと垂れ流し、1時間は止まらない。同じ職場だった頃は、煩くて仕事にならなかった。うざくてイライラしてくるので、病気にでもなって休まねーかと毎日願っていた。

# ブウグ、ブグ、ブウグ

「英雄さん、ほら、何ぼんやりしてるの!」

# 行け!悪魔のブタ、次は、人間のブタと小僧を食い殺せ!

 アグラマスの群れは、俺が妄想に嵌っている間に獲物を平らげたらしい。卑しい観客達の狂気の歓声に触発されたかのように、今度はこっちに来る奴がいる。

# ブブ、ブヒイ

 いやあ、正面の面構えからだと、なおさら須崎の頭を着けた獣が走ってくるようにしか見えない。

「よーし、来てみやがれ。アタイの剣は、豚なんかにやられはしないよ!」

 女剣闘士は、先程デブ兵士に投げつけた自身の槍を再び拾うと、けら首から穂先までを布で素早く拭き上げ、両手で持って構えるとシュシュっと試し突きをした。

「オラオラオラ、来い!」

 まだ年若いのではないか。すこし汚れているが、気合を入れ直して紅潮した頬は、カミさんとは違って活き活きとして、ドキッとする程色気を感じる。されど、須崎ブタの数は尋常じゃない。先発した2,3匹に引きずられ、次々に続いてくる。

# ブヒ、ブブブオオオオオオ

# 殺れ! 血祭りにしろ! 

『ふざけんじゃねえ。人が必死になって戦って死ぬところを見て愉しむのが、そんなに心躍るのかよ。』

 俺はここで初めて、恐怖感より人を人と思わない冒涜への怒りが勝っていた。そして、迫り来る須崎ブタの集団に、そのはけ口を求めようとする衝動に駆られた。

『おおっ・・・。』

 今度は、自らその変わる様を見届けている。カーボンの棒が、さっきと同じように蛍光を放つように緑に輝き出す。神剣アイギニオスの再登場だ。そして、薄汚い須崎ブタ達は、目前に迫った。

# ブヒヒ、ブヒヒヒ ブオブオブオブオブオ

「おらあああああ、須崎!死ねエエエエエエエエエエエエエエエエエ!」

 次々と俺達に怒涛の波の様に襲い掛かる悪魔の獣に、夢中で刃を突き立てる。さばきなどと云われるしろものでないが、剣をやたらめったら振り回し続けていた。

 それから、どの位闘っていただろうか・・・・。冷静さが戻って、辺りを見回してみると、俺の周り一面に、豚の屍が無数に広がっている。見ると、息をゼイゼイ言わせながら、女剣闘士も沢山の返り血を浴びて、やっとの思いで立っている姿があった。壮絶な死闘。誰の目にもその光景は、そう映るだろう。しかし俺は、溜りに溜まった須崎へのフラストレーションが完全に解消された快感で、不思議に疲れを感じていない。これは至極大人げないことであるが、とことんまでやっつけたぜ、の満足感でいっぱいだ。

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