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緑の中の

「そうなのよ、大ラッキーなのよ。驚愕の異次元体験にちびっちゃうかもね。」

 むーさんは、俺達とは違う生物なんだと思うようになった。多分パラレルワールドの住人だ。それぞれ個性がある、一人として同じ者はいないは当たり前だ。それでも人間という範疇の中では、大体が同じベクトルの指向が働く。つまり、俺を痩せさせるという使命を負っているのなら、俺の身体や精神状態を専門的に分析して取り組むべきではないだろうか。それが、全く無いのだよ、お前はな。ちょっとは、俺が壊れてしまうかもしれないと考えてもよいのではないか?

「♪ふんふんふんふん、ハイハイ、脱いで脱いで。」

「えっ?全部脱ぐの?」

「そうそう。」

 ちくしょう、鼻歌まじりに、ぶよぶよのおっさんを裸にするのが楽しいのか?もしかすると、そういう変態趣味があるのか?

「なに、こっち見てんのよ。丸ちゃんの情けなくくたびれた身体を見て、良い気分なはずないわよ。あ~あ、どうしたらこんなに無法地帯の贅肉が付くのかしらね。」

「悪うござんしたね、贅肉質で。」

 パンツ一丁の状態になった。そして、身体のあちこちに磁器絆創膏のような白いステッカーをベタベタと貼りまくりだした。

「これで血行を良くするとかなんですか?」

 何も返事をしない。黙々と張り続けている。そして・・・

「よし出来た。これから専用スタジオに入るのよ。」

「この異様な格好・・・でですか。何かまた嫌な予感がするんだけど、取り敢えず安全ですよね。」

「完璧よ。このセットを開発するのに億はかかっているらしいのよ。何せ、ハリウッドのトップ映像技術者の手によるものよ。もう、有名なエンターテイメント企業やアミューズメント企業から受注がかかっているらしいわよ。まあ説明は、あとあと、やってみればその素晴らしさが実感出来るから。それじゃあ、これを持って入ってちょうだい。」

 スキューバダイビングのゴーグルのような物と、結構重量感のある警棒のような物を持たされた。それにしてもこの姿は、どう見ても危険極まりない変態殺人鬼。他人に遭遇したら、通報されているだろうな。そして、家族や会社の奴等が見たら、転げまわって笑っているだろう。

『おっ、これは?』

 入口のドアのノブが見たこともない形をしている。

「ああ、入り口のドアよね。音楽スタジオと同じ様に防音で、更に室内の気圧を一定にするためハッチ式ドアなのよ。三つのクランクのどれかを掴んで回せば開くわよ。」

 確かに、鋼鉄の取手を掴んでクルクルと回すことが出来る。そして、カチッと回し切ると、重厚な扉がするっと前に少し開いた。そのまま押しつづけると中の様子が目に入って来た。

『な、なんだ、この部屋は・・。』

 天井も、壁も、床も、一面、緑、一色なのである。

「あれ、何も無い、・・ですよね。」

 これは、高飛び込みの比じゃない、余りにも怪しすぎる。そして、この中でなら異様な変態姿は不思議とマッチしている。この小説は、そんな内容だったっけ?R指定した方がいいのではないか?

「ハイハイ、中に入って。まず中央に黄色いマークがあるからそこに立っててちょうだい。」

 体じゅうに貼りものをしたパンツ一丁の変態デブ男が、緑の中に進み出る。

「お、これか?」

 バレーボール程の大きさの黄色く丸い印が確かにあった。言われたようにそこに立つと早速むーさんの声がしてきた。

「それじゃあこれから操作室から声をかけるわね。本番に入る前に稼働テストをやるから、私の声がハッキリと聞こえるなら、右手に持ったパワースティックを上げてくれる。」

 パワースティック?このダンベルの様に重い棒の事か?これでエアロビクスをやるとか?この変態姿は、何か意味があるんだろうな。発汗作用を効果的に促す、有酸素運動による体脂肪の燃焼性を高めるとか・・・い、いや、そんな現世的考えをこの異世界人が持っている訳がない。

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