悪代官と越後屋
「伊東ちゃん、僕が苦しんでるところを面白がってるだろう?」
「アハハハ、そう聞こえましたか?それぞれ個性あるご家族の日々の暮らしぶりを聞いてて、実に楽しそうだなっと感じてたんですよ」
「ウソウソ、3人の変態を相手にして、のたうち回ってるんだろうとな。」
「まあまあまあまあ、お2人とも、大好きな昼飯が不味くなりますよ。それで係長の難敵であるその例の健康消費税、法案の特別委員会が、結構盛り上がっていますよね。」
「ああ、革新の委員がこう言っているんですって、我が国はバブル時代までに膨張させた国の負担を削減しなければ、国政が経済面で破たんを招くことは免れない。その負担とは、不必要な公共投資と事業と補助金、複雑重複化した組織機関に係る運営経費、そして飽食に慣れた国民の肥満による不経済だとさ。これをスリム化することが、破たん回避の鍵なんだってさ。」
「最後のは取って着けたようなことですよね。」
「それで、一番真っ先に取り組むってどういうこと?」
「そうだ、そうだ、だいたい自分の金で肉を着けたんだから、大きなお世話だよな。路上喫煙者以上に迷惑者として扱うなんてどうかしてるよ。」
「まあ、まだ審議している段階だから、そうイライラしなさんな。」
「あ?今係長が一番その煽りを食っているんじゃないですか。僕ら以上に怒っても良いんじゃないですか。」
「確かにそうなんだよな。ところで、本当に実施になった時、ICで税徴収するって言ってたよな。そうすると、他人のカードを使ったり、痩せてる奴が購入して商売しようとする奴なんかが出て来るんじゃないか。」
「あ、係長が冷静なところが分った。やっぱりそういう姑息な手を考えてたんですね。」
「ば、馬鹿言え!例えばだよ、たとえば。」
「そんなの子供の浅知恵ですよ。キャッシュカードやクレジットカードをいくら親しくても使わせてくれる奴なんかいないでしょう。それに国がやるんですから、どこかで購入者とカードが一致していないと知られたら厳罰ですからね。
そうなると、犯罪者として社会的に排除ですよ。僕等、ひ弱な庶民、そんな事で人生棒に振る奴はいないですよ。それに、個人で商取引なんか申告の手続きや収支管理の次元じゃないと話にならないですから、そうなれば事業ですからね。まあ、係長がケーキ買って来てくれって言われれば、やるぐらいのレベルですよ。」
ムムム、鮮やかな見解、まさか下ネタの吉田君から頂くとは驚きである。
「それに、裏の話も出ているらしいですよ。」
「裏の話?」
「革新の幹事長の黒い噂があって、どうも一族の関係会社が絡んでいるらしいですよ。」
「関係会社って?」
「ほら最大手のTG証券は、鉄道やIT企業の大株主ですよ。幹事長の兄が会長、弟が社長なんですよ。つまり、法が実施されれば、運賃収益増と徴収システム独占開発でガッツリ稼いで、投資企業の株価を上げる訳ですよ。」
「はあ、出たな。私腹を肥やす政界と経済界の癒着なのかあ。大昔から良くある悪代官と越後屋の話だよな。ぬははは、おぬしも悪よのお、おほほほ、御代官様こそ、御見それしました、がはははは。」
「係長、気がふれましたか?」
「いいや、店で大声出して怒ると迷惑だから、プッツンしてマインドコントロールしてみた。」
「それってまともなんですかね?」
しかしながらこの面々で、昼飯を食いながら政治経済の話をしていることは、全く違和感がある。だいたいが下ネタか、会社の女の子関係か、掟破りの美味い飯屋についてグダグダとしゃべくり合っているのだ。
「それでですね、この前うちの女の子達と飲んだんですけど。」
「お、吉田ちゃん、いつもの実りの無い合コン?」
「まあそうですけど、その中に織姫様もいらっしゃったんですけど。」
「おおっと、総務課の人事担当、凍結面様ですか。」
「何ですかそれ?」
「吉田君、知らないのかい。彼女に、睨まれたら君もなっちゃうだろう。」
「アハハハ、確かに凍り付いちゃいますよね。」




