新規税法案
「仮称、健康消費税、世間では、カロリー税とかメタボ消費税って言ってるんですがね。」
「何それ?」
「デブ度が高いほど、税率が上がる間接税制度なんですよ。」
「いや、実質的にはデブ狙い撃ちの直接税だよな。」
「いまいちピンとこないんだけど、そのよく分からん名前の税金、内容をざくっと教えてくれる。」
# 失礼いたします。
話題に盛り上がりかけたところに、店員が注文した料理を運んで持って来た。それぞれにそれなりの高カロリー料理が配膳されていく。そして俺も部下もがっつりと一口ほうばって、腹の虫に餌を与えてやる。
「ムグムグ、私の知っている限りだとですね。肥満体は標準体の人に比べ、様々な分野で社会的に浪費率が高くかつ受益量も多いから、そこを公平に税負担で補おうというのだそうですよ。」
「なんだ?全然言ってる意味が分んないんだけど。」
「例えば、交通手段や公共施設利用等で、同じ費用負担にもかかわらず場所と光熱費を余計にかけているということですよ。平たく言うと、公共バス1台に人が満杯に乗った時、同じ運賃でデブだと普通の人より乗車数が少ない。また重みで燃費も悪くなる。経済効率が低いということですよ。特に夏の屋内電力の高消費に影響しているとのことですよ。」
「本当かよ?」
「政府がやった任意の企業調査だと、BMI値の高い従業員の多い事業所の方が、夏季の光熱費が大きいらしいですよ。」
「僕、夏場、エレベータに乗る時、いつも前に乗っている人達から嫌な顔されるのは慣れました。」
「なんだぁ、俺は社会的に不経済だと云うこと?そんなことで税負担を増やすのか?」
「将来的な社会保障や医療費にも影響するらしいです。」
「どういうこと?」
「デブは、足の間接に負担をかけていて、歳を取って寝たきりになるリスクが何倍もあるらしいです。また、肝機能の低下や高血圧による様々な疾病を起こしやすく、その医療保健料の財源を確保する必要があるらしいです。」
「なんだか、デブは駄目だ、社会悪だって言われてるようですよね。」
「ああ、中世キリスト教の世界じゃね~んだから、全く馬鹿馬鹿しいな。それで一体どうやって徴税するつもりなんだ?」
「どうも、国勢調査に併せて世帯毎に定期的な調査を行うらしいですよ。そこから、税率を決める指標を取り出すそうです。体脂肪率、BMI、代謝率辺りを見るらしいです。徴税方法は、どうもそのデータを総てのIC機器に反映するそうですよ。」
「それじゃあ、通勤の定期券とかに課税分上乗せして、料金を持っていかれるのか。」
「ドラッグストアのポイントカードにまで入っちゃうみたいですよ。」
「デブ虐め税だな。」
「アハハハ、デブ虐めですか、僕も他人ごとじゃないです。まあ、こんな法案通る訳無いし、だいたい審議する議員の奴等は殆ど課税対象ですからね。」
「ああ、この店に来ている奴等もな。」
「ちょっとスポーツジムにでも通おうかな。」
「まじ、本気なの。僕なんかサッカー観戦しただけで、痩せた気でいるけど。」
「ああ、俺もそうだ。」
そうして、2ヶ月程が過ぎて、ようやく仕事の繁忙時期が終わった頃である。夕刻にカミさんから携帯電話にメールが入った。
<今日、仕事が早く終わったら、飲みに行かないで、家に直行してください。家族で今後の対策を話し合いましょう。夕食は、貴方の大好きな焼き肉よ。>
『なんだ、随分よそよそしい文面だな。今後の対策ってなんだ。具体的に何処を買うか決めようってことか。』
そして、定時の退社時刻になった。今日は朝から職場も和やかな雰囲気で、残業が続いていた疲労感も抜けてきている。
「係長、僕等は今日はちょっとだけやったら退社しますけど。」
「ああ、俺も同じ。」