奇襲攻撃だった
「あ、いや、高野さん、いついらしたんですか。黙って入ってきて聞いているなんて、ひどいなあ。」
「いえ、熱心にお嬢様に語っていらっしゃるのを止めるなんて出来ませんよ。お蔭で非常に参考になるお話を聞けましたし、三宅様とご面識があるとは知りませんでした。」
「ふふふ、高野さん、コメントはそれだけ?」
「さすがお嬢様、よくお気付きで。三宅様が世の女性達の心を惑わすイケメン青年だったとは、初耳でした。さっそくプロファイルに記録するよう伝えましょうか。」
これだからこの手の女は怖い。知的美女はやはり魔性の性格を持っているのだろうな。
「勘弁してくださいよ。三宅さんと仲が良かった訳じゃないし、彼に知れたら僕がチクったってことになるじゃないですか。」
「すみません、誤解を招くような言い回しでした。決してご迷惑をかけるようなことにはしませんので。此処に来るお客様方は、実に様々なご要望をお持ちです。痩せると言っても、その目的は千差万別、その理由を明らかにしなければ決して長続きしないと思います。皆様がそれぞれご要望される身体に仕上げる為、私達はそのサポートに最大限の努力を厭わないのです。理由の一つと考えられるものは、どのような事柄でも記録させて頂いております。」
出た、予め用意されたもっともらしい営業用のうたい文句。俺も、今まで何千回と吐き続けてきたよ。こういう胡散臭い高飛車な言い訳が、一番信用できないんだよな。
「へえ、高野さん、カッコイイ。私、尊敬しちゃう!」
あ~あ、真保もやっぱりまだまだ未熟だな。さっきの機転の利いた言葉に、おっと思わせられたが、こんな見せかけの文句にまいっちゃったのか。
「そうですか、さすがは一流のグラブのコンセプトは違いますね。一応信用いたしますが、くれぐれも間違いが無いようにお願いしますよ。」
「うんもうパパ、そんな言い方、失礼じゃないの。」
『こいつ(パパ)、一体、なに卑屈になっているんだろ。ママはよく言ってたけど、優秀な人の前だとすぐ天の邪鬼になっちゃうって。ネガティブデブが一番扱い辛いんだろうな。こういう仕事も大変ね。』
「三宅様のお話は、これくらいにさせていただきまして、お二人の健康状態を測定とアンケートで把握しましたので、これからそれぞれ専用ルームに移って頂きまして、専門のカウンセリングスタッフがご要望をお伺いしながら、最も適したシェイプアッププログラムをご提案させていただきます。特に、お父様には、お嬢様よりご用命をもらっておりますので、その点で現実的な提示をさせていただきます。」
「真保、ばらしたんだな。」
「当り前よ、私はママの特命を受けて此処に来たんだから。」
「なに、お前のおねだりじゃなかったのか。」
「あ、いや、特命も受けて来たのよ。私が来たかったの。」
くそ~、騙された。パパ、心配だからついて行ってくれるわよね。真保が、行ってみたいというけど、私その日、料理サークルのメンバーで、コンテストに出品するオリジナルメニューの打ち合わせがあるのよ、だからお願いって、どうも低姿勢だと思ったんだよな。そこまでして俺に負荷を掛けようと結託していたんだ。これは、俺への思いやり。いや、あくまでも新居を買うための画策なのだ。とすれば、あの焼き肉会議の時から周到に計算されたもの?あの内輪喧嘩も演技?いやいや、亜希子にはこんな手の込んだ戦略を考える頭は無い。すると、作戦参謀は海斗か。俺はこの時点で、家族3人で練られた、親父ダイエットさせる奇襲攻撃を宣戦布告なしに受けていたことが分った。しかし、巨デブ砦、吉積亮治をそんなこけおどしで陥落、じゃなくダイエットさせようと考えるのは、笑止千万。
「そうですか、娘が僕に対する願いで言ったことなら仕方ないですね。取り敢えず話だけでも聞きますので、宜しくお願いいたします。」
「本当に、パパ、ママもニイも喜んでいるよ。」
『フン、ここは甘んじて受けておいてやるが、いつかそう思惑通りいかなくなることを忘れるなよ。』




