最終段階とは何か?
『むむ、やはりそんな胡散臭い法律が関わっているのか。』
人間は、自分の事しか考えない欲望の塊である。そのため人間社会の均衡を保つためにどうするか、欲望を統率する組織を作る、皆で守るルールを決める、という解決策を大昔から試行錯誤して考え出した。つまり、前者は国家の社会主義化・共産主義化であり、後者は議会が成立する制度法で国家を治めることである。これから政治経済学論を語るつもりはないが、我が国は後者を推し進める法治国家である。あらゆる分野に何でも法律を作って物事を整理しようとすると、ある法律を施行したために起こった不都合、つまり法律の抜け道を作り出したり、逆手にとって想定していないことをやらかす者が出てきて、またそれを法律で対応するという立法の増殖が起こる。結果、どれだけあるのか分からないぐらいの莫大な数になり、訳の分からない法律が存在することになったのだ。
#“それでは最後に、今までパイオニアメンバーとなった旦那様を心身ともに日頃から気遣い、支えていらっしゃる奥様の慶びの声をお伺い致します。おめでとうございます、旦那様がこの度見事に選出されました。今のお気持ちを教えてください。”
#“あんた、10日間も連絡をよこさないで、何処でくたばったかと思ってたわよ。そろそろ警察に届けようかと思ってたら、会社と役所と雑誌記者が行き成り来て、選ばれましたよって言うだけで何だか全然分からなかったわよ。”
「えっ、10日間?昨日からじゃないの?」
「いえ、正確には、11日と5時間です、余りの分秒は省略させていただきます。」
「う、うそだあ、なんでなんで?だって、このビルに入ったの前の日の夕方だったはずだ、だから可笑しいだろ?」
「エレベーターから転落された後、お気を失われるれたのですよ。それからずっとその状態でしたが、やっと先程意識が戻ったんですよ。」
『そうか、それで目を開けたら、会社の幹部達が揃って俺のことを見ていたのか。』
「それじゃあ、10日以上も恥かしい姿のまま此処に放置していたんだ、エグいことするなあ。」
「実は、この放置状態もパイオニアメンバー適性検査の最終段階なのです。」
「ウソウソ、ケツ丸出し状態で居ることがか?羞恥心にどこまで堪えられるかなんて、火星行きに関係ないだろう?そんなの役人の屁理屈と同じだよな。」
「お怒りはごもっとものことと存じます。ウ×コは検査事項に入っておりません。誰にも見られてないとはいえ、吉積様がまさかエレベーター内で用をたすとは予測していませんでした。一見理性を働かせるお方のようですが、限界点を越えた時の大胆な行動が出来ることに大変感服致しました。」
「それって、誉めているつもり?」
「そうです、そのような資質をお持ちであれば、火星へ行っても何の不安もありません。汚物塗れのお尻は当然に衛生上の支障がありますので、クリーニング致しました。お疑いになるようなら、処理実施中の映像記録がありますのでご覧いただきましょうか?」
「そんなの見せられて、俺の気持ちが収まるわけないじゃん・・・それで、最終段階っていうのを説明してよ。」
「はい、では先程私が申し上げたことはお忘れでしょうか?吉積様のお体のことですよ。」
「ん?俺が揺るぎ無い真のデブだってことか?」
「なんだあ、覚えていらっしゃっるじゃないですか。それじゃあ、もうお分かりになるはずです。」
「全然分かってないけど。」
すると、画面のカミさんのコメントが耳に入って来た。
#“これまであんたのために、色々と知恵を絞ってダイエットさせようとしたけど、無駄だと分かったわ。まさか、ブタとかカバと同じだったとはね。そのことが分かったら子供達も納得しているし、貴方のことを考えれば、しっかり火星へ行ってちょうだい。”
#“パパー、行ってらっしゃ~い。”
ムッとした顔付きで喋っているカミさんの横に、真保が画面に入り込んで来ていた。




