前向き
俺と真保は、高野さんからバインダーで挟まれた案内図とアンケートをもらって、3階の測定室へ向かった。声が掛かるまでお待ちくださいと表示がある。
「パパ、私達の希望の第1歩よね。」
「お前、本当、前向きだなぁ。ところでアンケートって、男と女って違うことが書いてあるのか?」
「また、いやらしい事考えているでしょう。高野さんの時、ドキドキしちゃったわよ。パパって、ママと付き合っている頃からもよく妄想しているんだってね。パパの目が虚ろになった時は、声を掛けてあげてって言われたわ。」
鋭すぎる、余りにも・・・。母親と娘は、そんな赤裸々な会話まで日常しているものか。それに引き替え親父と息子なんか、どんなに仲が良くてもプロ野球の試合結果でピッチャーがどうだったかとか程度である。ましてや海斗とかなんかは、共通しているのは体型ぐらいで、PCゲームオタクの世界は全く理解できない。俺が帰ってきても、夕飯以外いつも自分の部屋に引き篭もっている。友達も作れないで孤立するんじゃないかと心配だったが、携帯電話やPCでオタクの仲間と繋がっているようである。
# アハハハハ
「何、いきなり笑いだすんだ。」
「面白い!最初からこれが質問なんだ。」
関心を示したので、俺の持っていたアンケートの中身をちら見したようである。
「なんだよ、まだ本人が見てないのに、ずるいな。」
「ごめんねごめんね、だって、書いてあることが、なんですかこりゃ、ふざけてませんよね?だよ。例えば、これ、*出ている腹の肉は筋肉だと思っています *顔のほっぺたと鼻が同じ位の高さです *いつも机や通学通勤鞄に食べ物を入れ、きらさないようにしています だって。」
「なんだ?、*5分に一度はグルメ情報を見ています *ジムに行けば痩せられると思ってます ・・・これって、海斗のことか?」
「アハハハハ、アハハハハ、そうよね、ニイのことよね。それで本当にジムに行けばスリムになるのかな?」
「それは俺も疑問に思う。元々肥ってない奴が、筋肉質になるためだけじゃないか。会社の上司で、ジム通いしているのがいるが、いっこうに痩せる気配無いよ。筋トレすると身体が絞まった気がして、その後ガッツシ食べちゃうんだとか。その人、休日は草野球もやっているんだけど、試合が終わった後、必ず飲み会なんだってよ。確かに、ピッチャー以外はそんなに運動量ないからな、痩せないよな。まあ、日頃から走り込んでトレーニングしていれば別だけどね。」
「やっぱりそう。プロのスポーツゲームで、野球って、サッカーやテニスの選手に比べて走らないし、身体が絞まっているように見えないもんね。それじゃあニイは、やばいことになりそうね。」
「まあ、あいつはあいつなりのこだわりでやっているんだろうがな。」
「あとこれは何だか分かる?*スポーツカーやバイクが凄く好きで自慢です これって普通じゃない、男の子は誰でも興味あることじゃないの?」
「いやいや、これは分るぞ。自分に自信がなくなってくると、男は持ち物で自己アピールするようになるんじゃないかな。つまり、偽装指向だよ。ほら、後ろに変な羽着けたちょっと古めのスポーツカーやビックスクーターが爆音出しながら走っているのをたまに見かけるよな。あれに乗ってる奴って、デブが凄く多いと思わないか。」
「確かに、確かに。あれで格好ついたということ?でもどっちにしろデブには変わりないのにね。」
しかしこうやって、巷のデブについて評論をしている我々もデブなのである。いや、我々はそれとは違うはずだ。
「真保、とにかくポジティブにが大事だよ、前向きな状態だよ。俺たち家族は、その点で、ただのデブと違う所だ。」
「前向きなデブ?ってこと。」
「そうだ。」
「何それ、全然意味がわからないよ。」




