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悪あがき

# ・・・・・・・・・

 ウンともスンともである。当然既に試したのであるが、此処から電話をしても案の定圏外となっている。

「・・・マジかよ。」

 完全に閉じ込められた。中学校時代のどんくさデブは、総じて虐めの対象となるが、俺も例外なく用具出し当番の時は、必ず体育倉庫に閉じ込められた。その後いつも先生が開けてくれるのであるが、それが分っていても平静にしてはいられなかった。デブは落ち着いているイメージを持たれているが、ただ俊敏にリアクションが取れないだけなのである。

# オーイ、誰かああああああああ 誰か居ませんかあああああ

 それが窮地に追い込まれた標準的な人のリアクションである。

# ドンドンドンドン オオオオオイ ドンドンドンドン 誰かああああああああ 誰かああああああああああああああああ

 ある保険のCMのシーンではないが、思いだけは正にそういう状況、身も細る?ような切迫感で、救済の打音と激声を出し続けた。

# ドンドンドンドン オオオオオイ ドンドンドンドン 誰かああああああああ 誰かああああああああああああああああ

 普通、エレベーターに非常通話や呼出しボタンがあるだろうって。そんなことわかっとるわい。既に試してみたが、案の定反応無しなんだよ。

# ドンドンドンドン オオオオオイ ドンドンドンドン 誰かああああああああ 誰かああああああああああああああああ

 それから、足掻いた挙句、1時間は経過しただろうか。

# あああ、だ、れ、か、ああ、ああ、あ、あ

 しかしながら、疲れが限界に来ると、人間、忍び寄る諦め感が全身に浸透してしまうと、大人しくなるもんである。

”ドオオオン”

 デブ、ガゴ奥の左隅の床に座り込み、呆然と佇む。

 床下に出られないか、或いは、天井裏に行ければと、内側のパネルが外れないかつぶさに見たりするのであるが、曲がらない身体、曲がらない腕、曲がらない脚、曲がらない丸い指先の肉塊マンではいかんともしがたし。デブの悪あがきは口先だけで、絶対活動量が少ない。

『ダメ、だああああああ・・・・』

 このまま誰にも見付からず、なんてことは無いはず。とにかくじっくりと考察するのだ。そのためには、今までの経緯をよく思い返すのだ。

# 回想回想回想、考察考察考察 回想回想回想、考察考察考察 

 先ず、此処に来るのは俺だけではない。売店糞ババアも羨むその名簿とやらに載っている奴等は、皆来ているはずだからな。何か、此処から脱出するためのヒントが隠れていたはずだ。ダメ課長の無意味な話やババアとのくだらない会話を良く思い返すのだ。

# 回想回想回想、考察考察考察 回想回想回想、考察考察考察

『ダメ、だああああああ・・・・』

 課長のボケ倒しとババアの捻くれ弄り以外に、何もヒントになるようなものが頭に浮かばない。このまま新たに名簿に載った奴が来ない限り、やっぱり俺は、此処で最後を迎えてしまうことになるのかもしれない。

『むおおおおおおん。』

 ああ、もうちょっと真面目にダイエットしておけば良かった。デブオヤジのエレベータ餓死なんて話題にもならないし、地縛霊になっても、デブがさ迷ってる姿は、心霊スポットとしてイマイチ様にならないのである。やはりデブの真っ当な死に方とは、糖尿病や動脈硬化などあらゆる成人病に苛まれた結果、介護病床で寝たきりの状態であの世行きってのが自然ではないか。自分の垂れ流したウ×コとオ××コを嗅ぎ、むせながら、この世の最後を迎えるなんか最悪だ。

 そこで、気を取り直してもう一度。

# 回想回想回想、考察考察考察 回想回想回想、考察考察考察

『・・・・やっぱ、だめだああああ・・・・』

 気力と共に脚力もすっかり抜けて、その場にガッツリ足を延ばして座り込んだ。当然胡坐などかけない。(無駄な注釈:デブだから)

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