ヤアアコラ
# ヒョオオオオ
「パーヤーか、お前らにとっては神様なんじゃな。それではな、そのパーヤーちゅうもんに会うことは出来るのかの。」
「お、お会いなされなさるので?」
「ああ、たとえ神様だとしても、会って話さんとな。」
「話をなされるので?」
「ああ、するつもりじゃが、それが何か?」
「ほんにで?」
「なんじゃ、勿体振った言い草じゃな、会って話すのが悪いことか?」
「そりゃわしも話したいですじゃあああああ。」
「意気なり大声でなんじゃ。」
「わからんのじゃ。」
「何がじゃ?」
「パーヤー様の言うことが、難しすぎるんでさあ。」
「何て言うとるんじゃ?」
「”お前らはこの世に”とか”この世はお前らの世とか”意味が分かりませんのじゃ。」
「それじゃあ話にならんじゃろう。」
「だから、何て言ってなさるのか、聞いてきて下され。」
ということで名主は、パーヤーなるものに会うために、百姓からいつ来れば良いか教えられた。それは、新月の日から七夜明けた日の丑の刻の月夜に現れるとのことじゃ。で、その真夜中にじゃ畑に向かったんじゃ。月の光なんかは深く沈んだ闇の夜中に届くはずもなく、灯籠1つで足元しか見えない畦道を歩いていくは余りにも心細いもんじゃ。こんな夜に何をしているんか、やっぱりもののけじゃないかとまた思い返して、恐ろしさを堪えながらやって来たんじゃ。
「草木も眠るううう~てかねえ。」
ソロソロと足取りも重い。独り、真っ暗な畦道を歩くのは、きっと死んだ後、三途の川まで歩いて行くような心持ちじゃろうな。そうしてやっとのこと、なんとかあの畑の近くにたどり着いたんじゃ。
「こんな夜中に現れるとは、やっぱり妖怪じゃなかろうか。もう丑の刻になるが、戻った方が・・・。」
そう呟いた時じゃった、何やら聞こえてきたんじゃ。
# ヤアアコラ、ヨオオコラ、ヨイヨイヨイ
唄のような声を何かが出してしているんじゃ。名主は、恐ろしかったがなんじゃろうと興味も沸いて来た。
# ヤアアコラ、ヨオオコラ、ヨイヨイヨイ ヨイヨ、、ムム
唄が急に止まった。名主は、気配を悟られないよう、じっとして息を潜めたんじゃ。
「黙っとらんで、こっちに来なされ。そこにいるのは、ずっと前から分かっておるからな。我に何のご用かの。」
それでも、恐ろしがっている名主は息を潜めていたんじゃ。
「何をしとるんかのお、お前ら人というのはこれだからなあ、独りよがりな生き物は困ったもんよ。おい、お前は我と話をしたいんだろ、昼間にこの畑の前で話しとったのを見ておったぞ。」
それでもまだ、名主はじっとしておる。
「まあよい。お前らが、話しておったことにこれから答えてやろうかの。まず、我が創りし物とは、お前等人も含めて、万のもの達の生きておるこの地じゃ。お前達は、我が創りし地を使って、作物を植え育て、その実りを享受しておる。万のものはこの地から生きるに必要なだけ恵を均等に与えられている。お前達に常々申しておるのは、この世はお前達は住まわせてもらっているんだぞ。なのにお前等人というものは、この地を自らの物と勝手に決めて占有し、勝手に使いおる。お前達はこの世が創り出したもの。この世からお前達が離れるのは、死んだ時だけなのだぞ。お前達はこの地を自分達の都合が良いように変えようとしている。この世はこの地と天により成り立っておる。自らを創りだすものを超えることは出来ないのだ。言いたいのはそれだけである・・・お前は未だそこにいるんだなあ、話をしたいんだろう?」




