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地鎮祭

 ここまで引きずるつもりはなかったが、明らかに嘘くさい昔話によって理由がついたエレベーターの謎とは何かを話すとする。かつてこの建物を建設するに当たって次の様な都市伝説があると、ボンクラ課長は言うのだ。

~~~~~~~

 それは建造物の着工前に行われる地鎮祭の時である。

# カケマクモアヤニカシコキ オハトコヌシノオハカミ

 神官が祭壇に向かって、祝詞を奏上していた。その背後に社長、施工者、設計者、その他会社役員達が竣工までの無事と氏神への土地の使用の許しを得るため、頭を垂れ参列している。すると後方からドブ川のような汚臭と共にしわがれた声がしてきた。

「フヒャヒャ、なんじゃお前ら、此処にまたビルを建てるつもりか?止めとけ、止めとけ。」

 最後列にいた社員が振り返ると、そこに片手に酒瓶を持ったボロボロの身なりをした男が地べたに座っていた。どう見てもこの辺で徘徊しているホームレスではないか。

「此処に建てた奴は、ちゃんと建てないから、罰当たりで会社が潰れて行くんだよ。お前等も、間違いなくそうなるな。」

 すると、社員の一人がその胡散臭い、いや鼻が曲がるほど臭い男に近付いて当然の如く追い払おうとした。

「恐れ入りますが、見ての通り当社が厳粛に行っている儀式の最中です。この祝い酒を差し上げますから、お引き取り下さい。」

 すると男は、社員の警告に構わず言葉を続ける。

「何を言うか、わしは、この土地の主神じゃぞ。今、お前達がわしに拝んでいるからわざわざ出て来てやったのに、追い払おうとはどういうことじゃ。人間というものは、身なりが良くないことだけで判断する愚かな動物じゃ。」

 社員と男の小競り合いが、流石に前列の者達にも耳障りになったようである。

「後ろで何を騒いでいるんだ。」

「はあ、何やら浮浪者が地鎮祭に対して口を出しているようです。社員が対応しているのですが、なかなか頑なに居座っているんですよ。」

「どうしますか、強制的に何処かへ行かせますか?」

「いや、大切な祈願儀式にあやがつく様なことはしたくないからな。いったい相手は何て言っているんだ。」

「はい、どうも、自分はこの土地の氏神で、地鎮祭に出て来てやったんだと。」

「ほう、またとんでもないことを言う奴だなあ。何か物をあげて引き取ってもらえないか。」

「それが、わしの戒めを聞かないから、前の会社は潰れたとも言ってます。」

「わしの戒め、てなんだ。」

「はい、男の言うことには、このわし、つまりこの土地の事をよく調べろと言ってますね。」

「何か、言い伝えでもあるのか、確か此処は大昔は田畑だったと聞いているが、別に古戦場や処刑場の様な不吉な謂われはなかったと聞いているがな。」

「経営者が戒めを聞かなかったから、取り返しのつかないことになったんだ、と言い張ってるばかりです。」

「社長、どうしましょうか?どうせ戯言です、少し金を掴ませて追い払いますか?」

「うーん。」

 社員は居座る男を持て余しているようだ。

「お願いですから、お引き取り下さい。儀式の支障になるんですよ。」

「お前もしつこいなあ。」

 神主の祝詞が終ろうとしている。次は四方祓いとなるからか、社長は腹を決めた。

「仕方ない、どれ俺が話を聞いてみるか。」

「え、社長、そこまでしなくても良いのでは?」

 そうして、社長は居座る男の所へ出向いた。

「わしの住処を売り買いしているが、どうゆう了見でお前ら自分の土地だ何だと言い張っているのかよく分からん。まあ、わしは心深き神じゃ、最初、此処を使わせてくれと丁重に頼んで、祀りあげて来たから許してやった。それが、今では好き勝手にしおって、我慢ならなくなったわい。ん、お前はだれじゃ。」

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