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疑惑のエレベーター

 しかし、現実とは願望通り行くような甘いものではない。フーハー息を整えながら階段を上り終えると、既に電車は発車してしまった後であった。それでもやっぱり、その後何か奇跡的なことが起こってくれるんじゃないかと諦めきれない望みを持っていた。見え透いた嘘で言い訳をすることさえ、煩わしいと思っていたからだ。自らのことながら実に悪あがきもいいところであった。

 そうしてエレベーターの表示が3階から2階の点灯に移っているのが見えた。『やっと来たな。』

 これから展開する成り行きがひょっとすると新しい人生の始まりかもと勝手に妄想してしまいそうだ。

# ヒュウウウ

 古いエレベーター特有の移動音が近付いて聞えて来る。

# キュオオオオオ 

 1の表示が点灯した。

# キュウウウ、チン

 安っぽい電子レンジが出来上がりの時に出す様なその音に、ビクついてしまった。

 小さい頃、総合デパートに親が連れて行ってくれたのを思い出す。その時のエレベーターが正にこの音だった。俺は、その頃から何でも疑ってかかる性格で、つまりひねくれ坊主だった。どうして到着した時にわざわざ音を出さなければならないのかと思っていた。”さあ、着きましたよ、お乗りなさい”っていう知らせなのか。でも、乗るのを待っているお客たちは皆、表示が動いていくのをじっとを瞬きもせず見詰めて、到着しドアが開いた途端に乗り込もうと気構えているのだから、そんな機能など無駄ではないかと。しかし大きくなって色々と世間の事を知っていくようになって、実はそれが目が見えない人のためであることが分かった。世の中には、様々な人達が共に暮らしているのだ。そんな当たり前なことなのに、人は意外と頭に入れていないのだ。どんな事に出くわしても、そうわきまえて考えれば、これが無駄ではないかと思っていることが、結構理屈が分かってくる。

 今はそんな事はどうでもよいことが、何故かふと頭に過ぎっている間に、エレベーターの扉が開き出した。

# シュルー

 もしかして、中に何か恐ろしいものが居たりして・・・とかなんて、戦慄が走るベタな状況が起こるはずもないが、濁ったプラスチック製の照明のせいか、やたらカゴ室内が薄暗く、子供なら間違いなく怖がる程不気味である。

 そして俺は、足元を確認しながらカゴ床に踏み込んだ。

# クヒクヒヒ

 カゴ室が、少し傾いだような音がした。

『おいおい、コイツ大丈夫か?』

 規格型ではあるが6人乗り、積載450キロのものである。いくら俺が超デブであっても、余裕で運べるはずだ。

# クククク

 そんなに動いてもいないのに、また、妙な音がする。どう考えても焦らせているとしか言いようがない。とにかく、最上階の9階のボタンを押す。

♪ ブッブー

『ん、何だ?間違えたか?』

 もう一度、押す。

♪ ブッブー

『なんで拒否するんだ?』

 ・・・ということは、もう此処でIDを示せということなのか。しかし、操作盤をつぶさに見回してみるが、そんな事は何処にも書いていない。で、また押して。

♪ ブッブー 、押す ♪ ブッブー 、押す ♪ ブッブー 、押す ♪ ブッブー 、押す ♪ ブッブー 、押す ♪ ブッブー

 完全に同じことを繰り返す、サルの状態、いや、ブタだ。

♪ ブッブー 

 20回位しつこく繰り返したが、やはり同じである。

「くそ!あのババア、ガセを掴ませやがったか?」

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