別格
「あの、僕は此処に来れば何か分るんじゃないかと思ってただけですよ。」
「さて、本題に入らせていただきます。」
『ババア、無視しやがったな。』
「このエネーフピイカードをお持ちの方々は、直ちに所定の場所に向かって、ある情報を受けとって頂くよう指示が出ております。場所を訪れるには専用のIDが必要となりますので、これからお出しします。」
「これってそんな名前があったんですか、エネーフピイって何の略ですかねえ。
」
「詳しくは伝えられていませんが、壮大な意味があるようです。」
「壮大な?」
「そう、とてつもなく大きな、ということです。」
「言葉の意味は、分かっていますよ。その意味を聞いているんですよ。」
「ですから、規模が大きくてりっぱなことですよ。」
「もういいです、それでIDとは、また、カードですか?」
「いいえ、そうではありませんよ。それでは左手をテーブルに出してください。
」
「えっ、・・・まさか入れ墨とか、焼き印とかするわけ・・じゃないですよね?」
「ホホホホ、吉積様、またまた御冗談を。前世紀の冒険活劇映画ではありませんよ。そんな野蛮なことは致しません。さあさあ、テーブルの上に手の甲を上にして置いてください。」
豹変したとはいえ、これまで散々俺をいたぶってきたババアの申し出に、素直に信頼する意識を持たせるなどデブの俺に腹筋させるより有り得ない。そう言えば、フィットネスクラブのムーさんも、前屈で地面に指が着くか、ひと回り寝返りをうてればデブではないと言っていたなあ。まあそんなことは、今は関係ないが、とにかく信用されるとは、日頃の行いがものを云うのである。うちのカミさんもしかり。決めた時刻に待ち合わせしても、絶対に守らない。それと分かっていながら何度も痛い目に合い、それでも何故か、今度は大丈夫かもと勝手に思い直しているのだ。そして、また騙され裏切られる。俺は人が良いのだろうか、いや騙されやすいのだろうか。そんな奴ほど裏切られたことを許してしまうものなのか。
「それでは、IDをマーキング致します。」
そう説明しつつ、ババアはカウンターのスキャナーの蓋を開いた。すると、蓋の裏から鋭く閃光が走った。
# パシュ!
『うわっつ。』
当然、一瞬にして目が眩んだ。
# ・・・・
「終わりました。左手をご覧下さい。」
「うっ、何ですかこれは?」
手の甲に、直径3センチ程の丸く赤いハンコが押されている。それは、見憶えがある。
”たいへんよくできました”の花マル
「ふざけてるんですか?」
「うら・・いえ、素晴らしい、吉積様は選ばれた方なんですよ・・・私など、”もう少しがんばりましょう”ですから。」
「他にも、種類があるんですか?」
「そうですよ、あの推進部長様や常務取締役様でさえも、”良くできました”でしたから、吉積様はかくべつな、いえ別格です。」
「ふーん、別格、この私がですか?」
「そうですよ。」
「意気なりそんなこと言われても、全く伝わって来ないんですが。」
「ホホホ、伝わらないとは、こんな名誉な事に何をおっしゃるんですか。他の皆は、吉積様のレベルを目指しているのですよ。」
「私のレベル?どういうことですか?」




