入力結果
「僕が合格するのは不思議なんですか?ひょっとして適正になる理由を知ってるんですか?」
「だから知らんっていうとるがや。」
「それって、何処のお国の方言ですかね。」
「何故かということだろう?この板を持って来る奴等は、皆、胸に月バッチを着けているからな。」
「ということは、最高幹部連中ってことですよね。」
「そうさ、だから花や鳥バッチの奴等でもブッブーだったのさ。」
「課長や次長でも、代理で来た者は駄目だったってことですか。本人じゃないと適正認証出来ないのか。じゃあ・・・」
「じゃあなんだい?」
『・・・じゃあ、パスワードも本人別になっているということ?ヤベエ、ということは、無気力課長のパスワードだから、入力するとブッブーてことかあ・・・。それよりも、最高幹部のものを何で引退間際で意味の無い者に渡してあるのか?』
ブツブツと独り言で自問自答してしまう。
「何をゴチャゴチャ呟いているんだい。早く数字を押すんだよ。もうすぐ”あの時その歌が流れていた”があるんだよ。」
「何ですか、その”あの時”ってのは。」
「毎回欠かさず聞いてるラジオの歌番組だよ、知らないのかい?」
人の気持ちの程は絶対に分からない。このババアの自己中の反応は当たり前である。よく、あの人は”私の気持ちなど分かっていないわ”とか”俺のことは俺が一番よく知ってるからさ”なんて映画の台詞まがいの言葉があるが、つまり裏を返せば、他人のことはどうでも良いということである。この時、家族のそれぞれの思惑が、今いったい何処にあるのかと、ふっと頭を過ぎった。
「特に、今日は舟本敏夫特集だからね。彼は一時代を築き、一世を風靡したんだよ。あの頃、私も若くてね、花も恥じらう娘だった、憧れた先輩に抱いた恋、心は打ち明けられなかった。永久に私の記憶の中にしまって・・・。」
「そして、年食って、墓場へとまっしぐら・・・。」
「ヌオオオ、シャラップ!早く番号を押すんだよ!」
「分かりましたよ、押しますよ、いちいち煩いなあ。」
これまでサンドバック状態で、言われっぱなしの憂さを晴らすべく、つい隙を狙って思わず漏らしてしまった。とは言え意外と面白いんじゃないかと自画自賛。
「それでは押しますよ!」
「イケエ~ぴいいいい!」
# ピ、ポ、パ、ピ、ポ、ピ、ピ、ポ、ポ
さあ、入力結果はどうか、ドキドキである。
# ブッブー
『ナニイイイ!!!』
「ヒャヒャヒャ、やっぱりだねえ、うんうん。」
ババアは、ホレ見たことかとこれみよがしに愉しむ笑顔、異常にムカつくのだ。
『やはり、他人のパスワードじゃ不適格か。』
「ぴーちゃん、その板は誰かに頼まれて来たんだろ。そいつに、言っておやり。自分の事は、自分でやるんだよ。面倒なことを部下にやらせるんじゃないよってね。」
すると、読み取り機からアナウンスが流れてきた。
# 入力まで時間が空きましたので、ホストコンピュータの受信拒否となりました。恐れ入りますがもう一度カードを引き抜いて、最初からやり直して下さい。
「ほえええええ!」
「何だ、時間切れだったのか。」
「アンタが、ぐずぐずしてたからだよ。本当、鈍臭いんだよね。」
うるせえババア、お前がゴチャゴチャ口を挟んできたからだろ。期待通りにならなかったことで、暴言吐くんじゃねえ、と言いたいところである。
とにかく、仕切り直し、気を取り直し、士気を高め直し、再度チャレンジだ。
# 併せて申し上げます。余計なことではございますが、お客様の指先から診断したところ、危険水準のメタボリックシンドロームになられている結果が出ております。取り返しのつかないことになる前に、今すぐに現在の身勝手で放蕩三昧の食生活を改善することを進言いたします。




