適正認証
# 警告いたします。只今、取り扱い要注意データへのアクセスを感知しました。ご利用者様の権限適正認証の為、官公署発行の写真付き身分証の提示が必要となります。応対担当者は、身分証を受け取りましたら、専用スキャナーで読み取って、情報安全管理センターに送信して下さい。
「なっ、何だ!」
「お前さんが、本物かということだよ。どうやって確かめているのか私にはサッパリだけどね。ほれ、身分証をもっているのかい?・・聞いてるのかい?運転免許証だよ。」
そう言ってババアは、カウンターの下に身を屈めると、袖の引き出しからノートパソコンの様な機器を持ち出し、天板に置いてフタを開いた。
「その写しをこの機械で取ることになっているんだよ。聞いていたろ?ここに出しなさいよ。ほら、このガラスの部分に置けば良いんだよ。」
その根拠の無い上から目線の態度を改める気はないのだろうか。年上とか、管理職とかで偉そうにする奴は、相手を不愉快にしていることが全く分かっていない。
「適正認証って、不適性って出たら拒否することになるんですかね。」
「そんなもん知らん、駄目ってことは、そこで終わりだってことだよ。私は忙しいんだよ。早く置きなさいよ。」
そんな事は分かっている。全く、気が短い上に、何かにつけ”忙しい”とアピールしたがる。
職場にも、忙しい忙しいと普段から言っている奴が居るが、何が忙しいか聞いてみると、概ねふーんと返事したくなる程度である。更に意味が解らないのは、いかにも自慢げに話そうとする。こいつ等にとって、忙しいことは最大の美徳のようである。
通勤鞄から長財布を出して免許証を取った。そして、スキャナーで読み取り適正検査である。
機械による検査は、気持ちの良いものではない。例えば空港の搭乗手続きの時に受ける保安検査は、何回やっても馴染めないと思わないか。それは何故か?人間と違って無機質に結果を出すからだと俺は思う。悪い結果に対し、全く同情の余地が無いのだ、”お前は駄目だ、はい終わり”なのである。それにどうも検査官は、デブには疑いの目が強いような気がする。それは、何か隠していることをデブは体型でごまかしている様に見えるからか。いや根本的に、デブはだらし無く、その癖に偉そうにして検査に協力的でない奴と見られているからだろうか。
「何を戸惑っているんだい。その板を使いたいんだろ。人生何でも踏ん切らないと先に進まないんだよ。お前さんの×ンタマが縮み上がったところを見てもつまらないから、さっさとやっておしまい。」
『クソー、無茶苦茶暴言吐きやがって、お前は、お袋?カミさんか?』
長財布から運転免許証を取り出して、スキャナーの硝子の読み取り面に置いたのだった。
「そうそう、相変わらず肝っ玉が小さいねえ。ぴーちゃんもいっぱしの家庭の主になったんだろ。人生未だ半ば程、これから先、家族だけじゃなく、親の介護のことも出てくるんだよ。少しは割り切って考えることも覚えないとやっていけなくなるんだよ。だいたいアンタは昔っから食堂からやって来て、いつもブツブツ未練がましく愚痴っていたからねえ。それじゃあ、フタをしてスイッチを押すとするかね。」
ババアの記憶は、正しい。確かに、地下食の後は、そのまずい味にくどくど文句を呟いていた。百円寿司やファーストフードの味について語る奴等より酷いのである。
「ソーレ。」
スキャナーに接続された外付けの黄色いボタン式のスイッチに、ババアは手を掛けた。
# ツ~、ピカ
瞬間、読み込んでいる光りが閉じたフタの隙間から漏れると、ドキッとしてしまう。すると、
# データを読み込みました。認証システムを作動開始していますので、お待ち下さい・・・・、確認しました、照合の結果、適正利用者であることが判明しましたので、所定のパスワードをテンキーに入力して下さい。
「ほえ~、ぴーちゃん、合格したねえ、どうしてかねえ。」




