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自分絶対主義

「そういえば、安養寺常務もちょくちょく来ていると聞いてますけど。」

「あんようじ?そいつは誰なのかい?」

「うちのお偉いさんで、浅黒い日焼けした顔で角刈りのオヤジですけど。サロンで焼いた身体で、別にスポーツマンじゃないんですけどね。」

「ああ、細めだけど小腹が出てる縦縞三つ揃い、顔色の悪いヘナ夫だよね。アイツは元々血色が悪いんだよ、肝臓悪くしてるから60代半ばに肝硬変で死ぬな。」

『へ、へ、ヘナ夫かあ、この単刀直の毒舌、面白過ぎる。』

「とはいえ人のこと笑ってられないぞ。お前さんももういい歳だろう?内臓脂肪過多からくる肥満成人病になるぞ。つい最近に黄紋筋ゆうかい症で闘病生活になったメタボ中年男がいたからな。そいつはIBM40位だったが、ぴーちゃんは値はどうだい?」

「さあ?そこまでは・・・ない・・のかなあと。」

「お前さん、誤魔化すのが下手だね。この売店で、色んなクソ人間を見てきているけど、嘘が下手なのは救いようがないね。この嘘だらけの世の中じゃあ、

嘘が上手く付けないと生きてはいけないんだよ。」

 妖怪説教ババアの人生哲学をぶちまけられても、いっこうに理解不能、説得力ゼロである。コイツは、受賞アニメに出て来る怪しげな意地悪魔女キャラクター気取りなのだろうか。

「おや、黙っているけど、コイツ、胡散臭いと思っているのかい?」

 しかし、こういうババアは、人に生きる倫理を語るだけの徳を積んで来たのかねえと思うのである。そのくせ、独自の観念を固持しているから、人の話には一切耳を傾けない。よって反論しても無駄なのである。

「そんなことはありませんよ、話が逸れてしまったので戻しますが、此処にATMがあると聞いて来たんですよ、知ってますか?」

「えいちいえむ、何じゃそりゃあ?」

「お金を下ろしたり、入れたり、借りたり出来る箱型の機械ですよ。」

「ああ、銀行にあるボタンを押してやる奴かい?」

「そうです、何処にあるんです?」

「私はね、人を信用しない、だけど機械はもっと信用できないね。操作をしようとすると融通が利かないし、数字を画面で見せただけで、本当にそうなっているか怪しいもんだ。」

「そうですか、信用できないですか。」

「私はね、唯一信用できるのは、現金さ。金だけは、好きな物を食わしてくれるし、裏切られることはないからね。」

 ヤバイ、妖怪説教ババアが守賎主義至上論を説き始めたのだ。

「それで、ATMの様な機械の箱はありませんでしたか?チビハゲやヘナ夫が、使ってるって聞いたんですけどね。」

「しつこいね、またその話かい、そのチビハゲはエロ本が好きでねえ、特に巨乳系のパンチラ物を貪ってたねえ。いつか通勤電車でお縄になるような事しでかすんじゃないかって楽しみにしてたんだけどね。」

「あのお、それで最近そのチビハゲは見ませんでしたか?」

「そういえば、スーツ姿のハゲ爺が来てたような気がするね。」

 難攻不落の城も、攻め方を変えれば。お高くとまっている超美人も、酒を飲ませれば。そこでやっと気付いて来た。ババアを説教妖怪と思っていたが、単純に考え直せば、ただの痴呆老人じゃないかと。思い込みとは面白いもので、冷静に考えれば何のことは無いということがよくある。これは、他人のことよりももっと身近によくあることだ。つまり自分自身である。よくあるケースでは、自身を勘違いしている自分絶対主義自己主張人間だろう。この族は、学校や職場でも必ず1人は居る。人前で自分が優秀だとやたらに主張する甚だ迷惑な奴である。例えば、授業や説明会が終わって、皆がもうお開きだなというムードになってるというのに、どうだってよい質問をして無駄に長引かせる奴だ。そしてこの人間と個人的に関わり合いになった時は、もう最悪である。つまり、自分の誇示の為には、他人をフルに利用しようとするのである。昇進ばかりを考えているクソ野郎は、間違いなくこの人間で、掘り返した自分の穴を他人に埋めさせる様に、勝手に首を突っ込んで問題を起こし、後始末を部下や後輩に押し付けていき、そして、上手くいった実績だけを懐に入れていく。コイツには特徴があり、上辺だけの人脈を広げていき、常に上から目線で人を見ているという所である。

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