表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
112/152

ふざけた謎の女

「やっぱりそうかあ。」

「何か知っているんですか?うちの労組は、あって無きがごとく、全然労使交渉しないし、他企業の労組との協同啓発活動ばかりです。”従業員を無視したクソ組合だ”って、いつも罵ってましたからね。」

「そうだよな。」

 ここで、アイツがデブ擁護の政治家団体と関わっているなんて言えない。ばらしたら上司である俺も疑われて危うくなる。

 知っていて損はしないと言われるが、実は知らないで良いことが沢山ある。情報を手に入れるとは、知識の蓄積という単純な意味合いではない。関わりを持つ、つまりそれにまつわる様々な因縁の中に自分も身を投じたことになるからだ。自分は一切関係ないで済まなくなる。そして厄介なことに、情報は決して一定ではない。時間を経て、いつの間にか当初の物事から変質し、とんでもない災いとなって自分に降り懸かってくることがある。会社の機密情報を知ることは、確かにある意味血が騒ぐようなことである。昔話や神話にも扱われているように、人間、危険な物と分かっていても、妙に触ってみたいという気持ちにかられるとはそういうことで、それによって恐ろしいことが身に起こる予感との駆け引きが快楽なのだ。そして、何の根拠も無く自分は大丈夫だと思い込んでいることが笑ってしまうのである。

「伊東君も俺と同じデブだし、よくよく考えての行動なのかもね。上司として何も知らないのも良くないだろうから、それと無く聞いてみようかな。」

「あ、それって、うちの課長がよく使う当たり障りのない言い方ですねえ。」

「なにい、課長と一緒にするな、俺はなあ・・・。」

「あんな無気力人間じゃない、ですか?」

「まあな。」

 しかし、うちの課長を無気力呼ばわりするのも何かと思う。世の中、真の無気力な人間は居ないのではないか。課長の場合、会社の物事に志向が向いていないだけで、結構マメに引退後の生活を色々と模索している。まあ、その時間が会社の給与となっているのはどうかと思うが。逆に、一つの志向に突き進んでいるからこそ、それ以外のことは無関心なのかもしれない。とすると、今、周りの物事に揺れ動かされている我々の方が愚劣なのかも。

「課長は、俺達より賢いのかもしれないよ。」

「・・・係長、いきなりどうしたんです?」

 こんなことを黙想したところで、無駄に時間を費やすだけである。吉田犬の話はここまでだった。俺は取りあえず、課長が備蓄していた会議資料に目を通すことにした。

『なんだ、これは。』

 それは、過去3ヵ年の各部署別、渉外費、出張旅費、交通費の支出実績及び従業員のBMIの月別経緯が示されていた。最後に損失評価が示されている。

『海斗の進捗分析と同じことをやってやがる、クソ野郎共が。』

 先月末の会議には、恐れていたことが記述されている。

”今後、損失評価が大きい部署、並びにその評価に影響を及ぼしている社員については、しかるべき処置を行うことを留意されたし。”

 そして、2週間前の配布資料には、各経営責任者達が署名した業務命令書の写しがあった。

『なになに。』

”各位、総合減量化推進室は、これまで本社の経営向上、資質改善に向けて、社内の各分野の減量化を図って来た。今後も、前組織であった完全効率化推進担当室からの基本設計を推し進めるため、当室の実施計画に沿って、次の通りの業務命令を行うものとする。

 1、減量化に進捗の見られない部分への徹底指導を行う

 2、配置転換、組織再編成を含めた減量化の拡大を行う

 3、今後、総ての事業業務は本計画の達成を最優先とすること  以上 ”

 いつかはって思ってたけど、デブ狩りを堂々とやるということである。そして、会議の出席者の中に見たことのない人物が名が載っていることに気付いた。

”計画管理コンサルタント 藤 峰子 ”

『ん~このちょっとふざけた名の女、いったい何者なんだ?』

 また再び超たわけた匂いのする新キャラが登場したような予感がする。そして、会議録に掲載されているこいつのコメントがよく分からん。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ