小さい弁当
実に、心にも無いことを言ってしまったのである。言うは易し、いや、肥るは易し、痩せるは難しということがすっかり頭から抜けていたのだ。
「おお、亮さん、決意表明ですね。」
「パパ、素敵!」
「そうよ、とにかく前に進んでいれば何とかなるわよ。高カロリーのご飯はこれまでよ、明日からは超低カロリーの献立でいくわよ。」
翌日、仕事が落ち着いてくると外回りも少なくり、その日はデスクワークに着いていた。やがて昼近くになると、出ていた部下達も会社に戻ってきた。
「いやあ、午後にマワリが無いなんて、嬉しいですよ。定時に帰れるし、これが本当の人間の仕事ですよね。」
「そうそう、僕等はやっぱり働き過ぎなんですよ。おっ、昼になった、飯行きますかね。係長、どこ行きます?」
「あ、ああ、俺は、今日は弁当があるんだ、此処で食うから。」
「はあ、係長、愛妻弁当ですか?羨ましい。」
「ええ、どんな感じの弁当ですか、うちの奥さんなんか、結婚したての頃は凝ったの作ってくれたんだけど、今は見送りさえも無しですよ。」
「いや、そういうのじゃないんだけどね、ほら、君達にも言ったように家の購入があって、それで。」
「へえ、節約ですか、結構大きい家を買うんですか。今は超低金利だし、係長の稼ぎだと、通常の一戸建なら余裕ですよね。」
「いや、そういうのじゃないんだけどね。」
俺は、袖机の引き出しに入れておいた弁当を取り出した
「うわー、随分小さい弁当ですね。そんなの係長のいつものペースで食べると3分で終りじゃないですか。ダイエットでもやるんですか。」
「ああ、実はそうなんだよ。」
「でもそれじゃあ、午後もたないですよね。いったいどうして急にやり始めたんですか。」
「なんだ、君等も言ってたじゃないか、健康消費税だよ。昨日の夜、あれが実施されたら家の購入どころじゃないって家族中で大騒ぎだったんだぞ。なんせ、俺を筆頭に全員デブ勢揃いなんで、短期間にどうダイエットするか話してたんだ。」
「はあ、家族ぐるみでダイエット決起集会だったんですか。昨日の飲み会を断ったのは、そうだったんですね。」
# ププ
「伊東ちゃん、笑い事っちゃ無いんだけど、我が家では。」
「す、すみません。係長、騒ぎ過ぎですよ。俺もこの通りデブですが、心配してませんよ。」
「そうそう、慌て過ぎですって。」
部下達は、どうやら何か新しい事を知っているようなのだ。
「俺の過剰な心配なのか?どうして?」
「ネットで、他の政党の公開サイトを見てても、やっぱり革新自由党のごり押しみたいですよ。野党各党は反対に回って連合するって言ってるし、革新の中にも造反する議員も結構いるらしいです。野党連合で、過半数ですし、造反まで出れば廃案確実ですよ。」
「だいたい無茶苦茶じゃないですか、肥ってるだけで20%に増税なんて、僕なんか30%近いですよ。係長は?」
「43%。」
# えっ、ワハハハハハ
「何が可笑しいんだよ。」
「いえ、フフハハ、スゲーいってますね。いや、ご立派に太られて素晴らしい。」
「悪かったな、超級デブで。」
「いや、すみません、だから心配要りませんよ。それよりどうですか、午後の活力充填にガッツリ昼飯行きましょうよ。当面、奥様から指令が出て、飲み会は駄目なんでしょう?」
「最近表通りの先に、新しくカツ丼の店が出来たでしょう。昼に客寄せの半額キャンペーンやってるんですよ。終わらないうちに行こうって、伊東さんと申し合わせていたんですけど、今日チャンスなんで行くんですけどね。」




