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テレビニュース

♪ まもなく、NGに到着します。地下鉄線、KT線、AN線はお乗り換えです。お降りのお客様は、お忘れ物のないようお支度ください。お出口は右側です。NGを出ますと、次はKYに停まります。

人生が変わってしまったのは、4年前の夏からだった。

しがない中小の物流商社の係長である。大企業勤務や役人等とは違って、定時退社には、まったく無縁なプロレタリアサラリーマン。当然、昼間の外回りの業務整理のために、夜に処理書類の仕事にあたる。いつもの様に部下達と残業の腹ごしらえにデパ地下のハンバーグ屋に行って、飯の他にちょっとビールを1杯やりながら、仕事の出来具合は勿論、家族や親の事等でグダグダ話をしていた。

「へえ、係長、折角の夏休みなのに今年は何処にも出掛けないんですか。帰省も見送ったなんて、お子さん達、不満ブーブーじゃないですか。」

この店は、俺が学生の頃、デパートの配送のバイトをしていた時からやっていた。まさかこの近くに勤めることになろうとは、夢にも思わなかったな。なんせ、卒業したら海外で起業し、一発当てようなんて生意気に豪語していた若造だったから。さて店の話に戻って、結構面白いメニューが揃ってて、ハンバーグの他にモダン焼きと太い麺の焼きそばなどもあって、それらを色々と組合せた定食が人気なのだ。またそれなりの量で、価格も手頃、したがってやっぱり若い男の客が多い。それも大半が用を足す時に、自分の大事な物が見えない体型ばかりだ。まあ、俺もその一人なんだが。人間とは、どこかで開き直るしかない時があるんもんだ。ここまでくると、体重計が軽く3桁をはじき出すところも考えなくなり、健康診断の判定結果にも驚かなくなるもんで、逆に良い点だけを見るようになる。

「いや、皆には言ってなかったけど、ついに念願のマイホームを買おうかと思ってね。そこで、家族皆で頑張ろうということになったの。」

「へえ、それはそれは。確かに今、景気は低空飛行のままですよね。そのかわりローン金利も当面上がらないでしょうね。消費税が上がる前に、買い時ですよね。」

「いいなあ、家族で団結して夢を追うですか。僕も、今のマンション住まいより戸建て派なんですけどね。でも僕の奥さんは全く指向が逆で、戸建て住まいは、近所付き合いや家周りの手入れなんかあるから面倒臭いって思っているんですよね。今だと貯蓄が無くても、贅沢しなけりゃいけますよね。」

そんな他愛ない庶民の話も、安月給で働く者達の心の癒しのひと時である。生ビール、中ジョッキの持ち手を掴んで、口をグラスに寄せて、ぐいっとそのまま上に傾けると、芳醇な香りとともに刺激的な液体が喉の粘膜を通り抜ける。

「ふ~、美味い。これが失くなったら生きてられないね。」

「アハハ、係長、大袈裟ですね。まだまだ、親父臭くなるのには早いんじゃないですか。」

すると、何やら店の奥の方の客達がざわついているようだ。どうも、カウンター席の上に備え付けてあるテレビ放映に食付いているようだ。見ると、7時の定刻のニュース番組、最初の方に流される政治分野のようである。

# 今年4月の総選挙において、第1党となった革新自由党から発足した新内閣、博堂内閣が党内政務調査会の改革法案検討部会により審議されていました新法案が閣議決定され、今季予算国会において法案提出されることとなりました。法案の細かな実施規則につきましては今後、特別委員会、国会審議に併せて広く国民の皆様に説明して参りますとの事ですが、25法案の内、特に話題となっています・・・。

「マジですかね。あんな無茶苦茶な法律、国会が通す訳無いでしょう。」

ざわついているのは、今、部下の吉永が言っている新税法であるが、俺は仕事と家の購入のことでしか気が回っていない生活だったので、すっかりそれ以外の社会の動きに疎くなっていた。

「無茶苦茶って?」

「係長、知らなかったんですか。」

「ああ、このところ家族と新居生活のことでいっぱいいっぱいなんで、あんまり政治家のことなんか気にしてないんだよ。」

「いいなあ、生活に充実感あって。でも、係長にも間違いなく関係してきますよ。」

「俺に?一体どんな税なの?」

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