3時間目―蜜柑と李
街から遠く離れた森の中。普段は小動物さえいない。しかし、その日は違っていた。
袴姿の少女が、腰に携えた刀を握って無我の状態にあった。よく瞑想し、周りの風によって起こされた、樹々のぶつかる音、葉が地面に音、そして鳥の囀ずりさえも聞こえていなかった。
しばらくの間、彼女は微動だにしなかった。一枚の葉が、彼女の目の前を過ぎようとした時、彼女は目を開き、その葉に向かって一太刀抜いた。
葉が地面に着き、一枚だったのが二枚になっていた。真ん中を切った訳ではない。葉の表と裏で切り分けたのだ。
「お見事アルね!」
彼女の後ろで、拍手の音がした。そこには同い年くらいの制服の少女がいた。
「いや、まだまだだな。少しばかりムラがあるでゴザルよ」
刀の少女は、二枚の葉を後ろの少女に手渡した。
普通に見れば、真っ二つ。しかし、二人の目にはそれが明らかに映し出されていた。
「まあ、いいんじゃないかな。それなりには」
「何を言っておるでゴザル。剣の道、これすなわち精進の道でゴザル」
「ありゃりゃあ、そうだったアルね」
侍少女と漫画に出てくるようなエセ中国人の少女。
侍の方は神無月蜜柑。中国娘の方は穂村李。共に今年から神様学園高等部の学生だ。ちなみにクラスは、
「あ、ほら、今日は学校アルよ」
クラスは、
「そうでコザったな」
喋らせて!
「嫌でござる」
「嫌アルよ」
……虐めだ。ナレーター虐めだよ(涙)。つくづく語り手を虐める物語だ。
「さて、行くアルよ」
「そうでゴザルなぁ」
二人は学校に行くため、山を降りた。常人なら小二時間は掛かる距離を。
ちなみに現在の時刻は8時ちょうど。着席の時刻はその30分後である。
これはあくまで余談だが、二人が去った後、神無月蜜柑の居た場所の周辺の葉はなく、周りにあった木が蜜柑の斬った場所から斬られていた。
蜜柑は葉を斬ったのではない。自分の周りにあった木を斬ったのだった。それにも、少しのムラがあった。二人は葉よりも、木の話をしたのかもしれない。