再会は懐かしき故郷で
この作品はMF文庫新人賞へ応募した作品です。ですので、続編を執筆する予定は今のところありません。
また、これは一次落ちの作品です。至らない点が多数存在しますので、ご注意下さい。
能力向上の為に内容や文章や展開等の感想をどしどし頂ければ幸いです。ちなみに頂ければ、泣いて喜び踊ります。
昔、昔――気が遠くなるくらい昔の話。
まだ世界が七つに分かれていて、この地が日本と呼ばれていた時代――そこには神様が住んでいました。多種多様の神様――人々はそれを『八百万の神』と呼んでいました。
いつから神様は存在していたのか、どうして人々に語り継がれているのか――それは誰にもわかりませんでした。ただ唯一、分かる事は神様がこの世界を支えているという事だけでした。
そんなある日、世界に一人の神様がどこからもなく、風のように訪れました。
光を反射させるような白銀の長い髪をなびかせ、日本には似つかわしくない純白のドレスを纏い、誰もが見惚れてしまうような女性(神様)でした。
彼女は言いました。
「この世界は人々も私の仲間達も幸せで嬉しそう」
彼女は世界の各地を回りながら多くの神様と人々と関わりながら過ごしました。それは充実した生活であり、人々にも幸を招きました。
そんなある日、彼女は疑問を抱きました。それはほんの気まぐれで生まれた疑問――
「どうして人々は色々な表情をするのか」
それは人々にとっては当たり前の事――ですが絶対的な存在と力を持つ神である彼女には理解できない事でした。
彼女は願いました。
「私は彼らの感情という物を知りたい」
しかし、それは叶わぬ願い――それもその筈。彼女は神であり人ではない。神であるが故に人々と気軽に関わる事など許されなかったのです。
彼女には神として『存在を創り変える力』を持っていました。それを使えば叶う願いでもありましたが、彼女はそれを願いませんでした。
力を使えば彼女は人に生まれ変われました。だけどそれは神様ではなく、人として生きていくという事。
だけど彼女の願いはこうでした。
「神として、他の神と共に人々と過ごして、人々を知りたい」
力を使えば彼女は神ではなくなる――それ故に彼女の願いは本当の意味では叶わないものでした。
ですがそんなある日、一人の神様が現れました。髪と同じ色の漆黒の装束を纏う、風体で印象を言うなれば『平凡』な男の神様でした。
「貴女は人々を知りたいと願った神か?」
彼は迷わず一直線に彼女に会いに行き、そう告げました。
「……貴方は?」
「ただの平凡などこにでもいる神――しかし、貴女の願いを叶えたいと願う者だ」
彼がそう告げると彼女は眼を見開いて驚きました。それもその筈、彼女の願いは到底叶えられるものでもなく、他の神様の力を持ってでも無理なもの。そもそも彼女自身が神としての力を行使して願いを叶えたいとは思っていなかったのです。
それを察したのか彼は返答を待たず続けて言葉を紡ぎました。
「貴女の想いは察している。神としての力は望まない――と。しかし、貴女の願いは神としての力無くては叶わないものだ」
彼の指摘はその通りであり、的を射ていました。それは彼女自身も理解していること。
「…………そんな事くらい分かっております」
「しかし貴女はそれでも自身の願いの先を見たいと願っている。だから私は貴女に会いに来たの だ」
彼は強い漆黒の瞳で彼女を見つめながら言葉――力を紡ぎ続ける。彼女は彼には何かがあるとこの時点で薄々感づいていました――…………。
「それでその女の人の神様はどうなったの?」
「やっぱり男の神様が女の人の神様を助けたんだよね?」
二人の幼い女の子の疑問の声が上がる。どちらも二桁もいかない幼い無邪気な姿で寝そべりながら、少し年上の少女に寄り添っていた。
『俺』はそんな三人の姿の傍で座り込んで、その光景を見つめていた。
「そうよ。でもその方法は彼女の想いを裏切るものであって、叶えるものだったの。それはね――」
優しげな微笑を浮かべた少女は両手に持つ絵本。それを宝物を大切そうに包み込みながら次のページを捲っていった。
やがてその光景は光に包まれて、おぼろげになっていく。そうして声が響き渡る――
『戻ってきて。貴方の大切な思い出の地へ――』
◆
「…………夢、か」
体全体が不規則に揺すられ、流れていく情景は一瞬で途切れて薄暗い光景に移り変わった。小さな窓からは微かな日差しの光が差し込んできている。
身動きを取る事だけが精一杯の荷物で詰められた空間の中、体を起こす。
「よう、兄ちゃんおはようさん」
俺が起きた事に気付いたのか、前方にいる麦藁帽を被り無精髭を生やした男がゴツゴツとした手に手綱を握りながら挨拶をしてきた。
「…………おはよう」
「もうすぐで目的地に到着するぜ。準備は済ませておきな」
そう言われて寝ていた場所から自分の荷物を引っ張りだしてくる。準備と言っても荷物は片手で持てるバッグだけなので対して手間もかからないが。
「しっかし、兄ちゃんもあれかい? 噂を聞いてやってきたのかい?」
「……ま、そんな所とは言っておくよ」
噂とは勿論、目的地である地方『ヴェルディア』の事である。数年前までは自然が多く特に特徴らしきものもない地方だったが、近年世界中の話題に上がる程の発展がしたと噂になっている。
まだ自分の目では確認してないが、他人の話を聞く限りでは、ほほ間違いなく事実だろう。長い時が経てば、変化するのは当たり前の話だ。
それに例外は無い。例え故郷でも変化はするものだ。ヴェルディアは俺の故郷――両親の都合ととある理由から幼き頃、故郷から離れて、両親と共に世界各地の色々な場所を回ってきた。
だからだろうか――十一年ぶりの故郷に帰るということで懐かしい小さなころの夢を見たのは。
「………………」
正直、本音を言えばもう帰る事はないと思っていた。少なくとも自分自身で決めた決意が叶うその日までは。だけど、それは叶わず、誰かに呼ばれるという別の形となって訪れた。
『戻ってきて。貴方の大切な思い出の地へ――』
事の始まりは数か月前。たった一言、夢で聞こえた言葉だった。最初は気のせいだろうと思っていたが、その日から何度か夢の中で声が響く日が続いた。
それが何を意味するのかは俺には分からない。だが頻繁にその声が聞こえるという確信はあり、それを偶然と片づける事は出来なかった。
だから俺は両親に神心旋律を奏でる為に地元へ戻ると話を付けて、一人故郷の地へと足を運んだのだった。
「兄ちゃん、着いたぞ」
男の言葉に続くように周囲からは活気のあるざわめきが生まれ始めていた。
「助かったよ」
「なーに、困った時はお互い様よ。こっちは道中だし気にすんな。それじゃあな!」
ガハハと大きな声で笑いながら手を上げて馬車と共に去っていく。目的地までの道中、賃金が予想以上に掛かり移動手段に困っていた。そんな時、偶然にも運搬用馬車が目的地を通るという事から乗せて貰えたのだ。男は気にするなと言ったが、心の中でもう一度しっかりと彼にお礼を告げる。
「しかし……噂に聞いていた以上に変わっているな」
元々は田舎であり、賑わうのは祭事の時くらいだったが、その時でさえも都市の日常の騒がしさには敵わなかった。
しかし目の前に広がるのはほぼ都市と同じくらいの賑わいを見せており、昔と比べて家屋に出店に人の数も桁違いだった。
微かな昔の記憶に残る地理を頼りに街中を歩いていく。発展で田舎町はすっかりと都市街へと変化していたが、根本的な部分はしっかりと残っていた。石で出来た家屋、舗装された道、そんな中にも自然の面影は残っていた。
だからこそ、迷わずに懐かしみながら目的の場所へと足を進めることが出来た。
目の前には大きく建ちそびえる西洋風の学園――アシュライト学園がそこに存在感を主張していた。今はちょうど登校時間より少し早いのか、ちらほらと制服姿の学生が見受けられた。この学園こそが目的地であり、ここからお世話になる場所でもあった。
学園生活――その言葉からかつての面影を思い出す。今、彼女達はどこで何をして過ごしているのかと。もしかしたらこの学園に――とは一瞬だけ浮かぶが、すぐに打ち消す。それはただの淡い願いでもあり、俺自身の後悔の形でもあったから。
それにヴェルディアが発展したのはこの数年の事だ。彼女達は俺と違ってしっかりとしていて、この世界で当たり前の『力』を持ち、扱えている。しかしそれはまだまだ未熟。だから彼女達はその力を本当に扱えるように、本当の意味を知る為に環境が整っている都市の方の学園へと行っているだろう。
(結局……まだ振り切れてないだけなんだよな)
俺がこの地を離れる主な要因となった出来事――それは俺を縛り付け、心にも体にも深く刻みつけられている。
あの出来事は仕方のない事だ。誰も悪くないし、責任なんて誰にも無い。ただ悪い事が幾つも重なって起きた事。でも俺はそう割り切れなかった。
表面上は既に過去の出来事となっているが、俺の中では未だそれは続いていた。結局割り切れているようで割り切れていない矛盾だけがそこに渦巻いていたのだった。
「ちょっと! そこの貴方何をしているの!?」
気づくと目の前には夕日の様な紅い長い髪と月の様な色を宿す瞳。紺をベースとした三色のチェック柄の白いフリルがついたスカートをなびかせ、白のシャツに赤いリボン。水色のラインが走る黒いブレザーを羽織っている女の子が明らかに敵意の視線を向けながら仁王立ちで立っていた。
「この学園の生徒では無いわよね。一体何の用なのかしら」
彼女の様子を見る限り、俺はどうやら不審者か何かと間違われているみたいだった。変に言葉を使えば話をややこしくするだけなのは目に見えている。
それに学生たちが学園に通う中、私服で突っ立っている俺にも非があった。
「今日からこの学園に編入する蒼月久也なんだが……」
「え、あ……貴方がそうなの? ごめんなさい……私ったら勘違いしてしまって頭ごなしに疑って……本当にごめんなさい」
「いや……気にしなくていい。ぼーっと突っ立っていた俺も悪い」
はっとして彼女からは敵意の視線が消え失せて、申し訳なさそうに頭を下げてきた。頭を下げて長い紅い髪がふわりと浮かび女の子の香りが鼻に届き、一瞬だけ気を取られてしまった。
「そう言って貰えたなら気が楽にはなるわ……お世辞の気遣いでもね」
別にお世辞の気遣いをしたつもりはなく、本音なのだが……まぁ、彼女がそれで納得しているならば俺からは何も言わない。
「それより職員室の場所まで案内して欲しいんだけど、いいか?」
「えぇ、それくらいならお安い御用よ。ついてきて」
彼女は踵を返して歩きだし、俺も続くようにその背に歩き出す。彼女の歩く姿勢はしっかりときびきびとしており、動作だけでしっかりとした人というのが分かる。さっきの言葉から考えるに風紀委員か生徒会という場所に属する人だろう。あくまで予想なので、実際は違うかもしれないが。ま、今は深く気にしなくても良いことだな。
「ここが職員室よ。中に入って名前を言えば詳しい説明が担任の先生からされると思うから、ここから先は大丈夫よ」
校門から中庭の芝生が生い茂る中に通る一本の道を抜け、そこから石造で出来る校内の廊下を歩き続け、引き戸の扉の前に到着した。扉の上にはプレートに『職員室』と印字されている。
「あぁ、分かった。助かったよ」
「本当にさっきはごめんなさいね。それじゃあ私はこれで失礼するわね」
最後にもう一度頭を下げて彼女は去って行った。最後までしっかりと責任を重んじる人だったな……ってそういや名前聞いてないや。
(ま、同じ学園に居る身だし、次会った時に聞けばいいか)
そう思い扉に手を掛けて職員室の中へと入る。
「失礼します。本日編入する蒼月と言うのですが――」
「こんにちは。貴方が蒼月久也君ね」
名前を告げるとクリーム色の髪を束ねた、少し年上くらいの女性が俺の前へと歩いてきた。
「私はセフィル・アナストレア。貴方が編入するクラスの担任で、話は聞いてると思うけれど神心旋律の研究家よ」
「これからお世話になります、よろしくお願いします」
差し出された手を握り、頭を下げる。この学園生活は彼女にずっとお世話になり続ける事になる。少なくとも短い間という事は無いだろう。
「そんな畏まらなくても大丈夫よ。早速だけど確認するわね。蒼月君は神心旋律が未だ奏でられないっていう事で間違いないわね」
「はい。真名と音色は認識しているんですけど、まだそこまでは……到れていません」
「そこまで理解していながらも神心旋律には至っていない――それも十年以上。これは難題ね」
恐らく俺自身の事が書かれている書類に目を流しながら、セフィル先生は深く息を吐いた。
「こっちはしばらく様子見段階ね。もうすぐ朝のホームルームも始まるし、そっちの準備に移りましょう」
そう告げてセフィル先生は紙袋を手渡してくる。中を見ると折りたたまれた男用の制服の他に学生手帳や書類が入っていた。
「奥で制服に着替えてきて。それから教室に案内するわ」
「分かりました」
奥で着替えた制服は青白のラインが入った紺のブレザーにカッターシャツにネクタイ。そしてブレザーと同じ色のズボンという極普通の制服だった。
(まぁ、俺が回ってきた地がおかしいというのもあったからなぁ……)
両親と共に世界を回ってきたせいで色々と毒されてしまっていて、普通の基準がずれてしまっている。だって制服が魔女の服装やらドレスやらコスプレかと思うくらい派手な物が多かったからだ。
サイズがぴったりな制服に袖を通して、セフィル先生に教室まで連れられる中、しみじみとそう思うのだった。
「ここが蒼月君の教室よ」
そうこう考えている内に気付けば教室へと着いていた。
「合図をしたら入ってきてね」
頷くと、セフィル先生は先に教室へ入り、賑わう生徒達を静めさせてからホームルームの連絡をし始めた。
中で転入生の話題が上がった瞬間、教室からわっと大きなざわめきが広がった。男か女か、どんな奴か、とセフィル先生に質問の嵐が飛んでいく。
「それは見てからのお楽しみよ。入ってきて」
合図があったので躊躇せずに教室の扉を開けて中へ足を進める。様々な地を回り、転校だらけだったから怖気づくどころか恒例としてもう慣れ切ってしまっている。
教室に入った瞬間、男からは残念なため息が、女の子からは歓喜と視線が一斉に飛んできた。毎度の事なので特に気にせずに黒板にチョークで自身の名を刻みつける。
「初めまして、転入生の蒼月久也です。まだ慣れ――」
と、そこまで言ったところで教室にガタッと大きな音が二ヶ所から発生した。見ると真ん中付近に座っていた女の子二人が立ち上がっていた。
「ひ、久……也?」
ふわふわの金髪ロングヘア。海よりも深いサファイヤの様な蒼色の瞳。その目を見開いている女の子が俺の名を呟いた。
「嘘……え、本当に……」
もう一人の女の子はピンク色をした長い髪をなびかせて、真紅の目を揺らしながら口に手を当てて信じられないという様子をしていた。
当の俺はと言うと何が何だかさっぱりで、頭が理解に追いついていなかった。
「蒼月君のお知り合い?」
「いえ……多分、初対面ですけど」
少なくとも俺の知り合いにあんな可愛い女の子二人はいない。もし居たなら一目で思い出すか分かる筈だ。それが無いという事は初対面という事になる。
「え……忘れちゃったの久也?」
「……忘れるも何も、会った事あったっけ?」
忘れたと言われても本当に身に覚えがない。他人のそら似で勘違いでもしているのか。そう思った瞬間、ピンク色の髪の女の子が『その名』を呟いた
「久……だよね?」
「っ!?」
久也――だから、久。そう呼ぶのはただ一人だけだった。その瞬間、俺の思考は一瞬にして答えにたどり着いた。
「ま、まさか……リエル? てことは、君は……愛乃……!?」
「やっと思い出した? 忘れるなんて酷いよ……バカ」
泣き笑いをするピンク髪に深紅の瞳の女の子、俺の幼馴染でもあるリヴィエール・ラルーネが昔と同じようにそこに立っていた。
「おかえり、久也!!」
もう一人の金髪で空の様な瞳を持つ女の子――リエルと同じく幼馴染でもあり、弓來愛乃が満面の笑みでそう告げたのだった――…………。
◆
それからの教室は嵐だった。二人とはどういう関係とか、もしかして幼馴染とか二人の為に転入とか、愛乃とリエルに関する質問の嵐だ。どうやらクラスだけではなく学園の中でも人気者らしい二人の昔馴染みが転入してくれば嵐が発生するのは当たり前とも言えた。
そうして現在、昼休み――俺は二人に連れられて屋上へとやってきていた。夏手前の屋上には人はおらず、現状ではちょうど良い――いや、助かった。
屋上の穴場と言わんばかりの影場に引っ張られ、そこで二人は弁当、俺は元々持っていたパンを広げて十一年ぶりの一緒の食事をしていた。
「もう酷いよね、久ったら私たちの事忘れて」
「だから悪かったって…………」
朝のホームルームですっかり忘れていた事を未だに根に持っているリエルが頬を膨らませながら毒づく。正直言い返せない上、本当に気付けなかったのでただ平謝りするしかなかった。
十一年の月日が経てば女の子は変わりすぎると痛感した。あの時はまだ無邪気で元気で男の俺と似たり寄ったりな感じだが、今目の前で弁当にありつく二人は完全に女の子として成長して……可愛くなっていた。
愛乃は昔の面影を残してはいるが、あの時からあまり身長が伸びておらず、どうしても年下に見えてしまう。対してリエルは身長やその他色々な部分が成長していて、かなり女の子らしくなっていた。
あの時、久と呼ばれなければ言われるまで気付かなかったと思う。
「でも仕方ないと思うかな。私だって名前見るまでは誰か分からなかったもん」
愛乃が照れ笑いを浮かべながら俺をフォローする。姿は成長して変わっても、根本的な性格は全く変わっていなかった。
「でもいきなりどうして帰ってきたの? 久也はお父さんお母さんの都合で各地を転々としてた筈だよね?」
「それに帰ってくるなら事前に連絡くらい欲しかったよね」
「それも含めて悪かった……急に決まったからそんな暇は無かったんだよ」
実際、学園転入が決まったのは本当に先日の事だった。両親の仕事についていく中、ふとした噂でヴェルデアに新しく出来た学園に神心共鳴の研究家が先生として勤務していると耳にした。
ずっと見続けていた夢――神心旋律に何か関係あるのではないかと、そう思い立ち神心共鳴に至れていない現状を利用して故郷へ戻ってきたのだ。
だから転入理由は『長年奏でられない神心旋律を奏でる為』という事になっている。
急な話だったので親父達はついてきていない。一応、そろそろ仕事が一段落つくらしいので時間が経ってからこっちに来るとは聞いているが……あのお人好しの二人の事だ。多分しばらくは来ないだろう。
「でもこうやってまた三人でご飯食べられるなんて夢にも思わなかったよ」
「そう……だな」
満面の笑みを浮かべる愛乃の言葉に対してすぐに頷くことは出来なかった。まだ過去を拭い切れていない。過去を拭い切って、守れる力を手に入れるまではこっちに戻ってくるつもりはなかった。
二人に感じるのは負い目だ――左肩の背中部分に刻まれた傷がズキリと痛んだ。
「って急な話って事は……荷物とかどうしてるの?」
「後で親父達に送ってもらう――住む場所が決まり次第」
トントン拍子に物事が進んだので、住居の確保は出来ていない。学園寮を借りる事も出来たが夏手前の時期、空いてる部屋は無く人数調整をするまでは借りられないとの事だ。それまでは学園の宿直室を借りられる事にはなっている。
だけど愛乃とリエルがまだここに居るなら話は別だった。
「二人はまだ実家住まいだよな?」
「うん――ずっと久也の帰りを待ってたから」
聞くと、愛乃が頬を僅かに赤く染めながらそう告げたのだった。幼馴染がいつか帰ってきてもいいように、という意味だろうが……一瞬勘違いしかけてしまった。
「俺が住んでた家はどうなってるんだ? もう誰かの手に渡ってるんだよな?」
親父達が世界各地を回る際、かつての実家は他人へ解放状態――つまり売出し中になっている。誰かの手に渡っている可能性は大きかった。立地条件は良好、一軒屋、相場よりも半額近い価格。これに飛びつかない人は少ないだろう。
「うぅん。あの時と変わらないまま残ってるよ」
「は?」
一瞬、耳を疑った。リエルの言葉をそのまま受け止めるなら、売れずにまだ誰の手にも渡っていないという事になる。
「あ、そうだ愛乃! 久を驚かしちゃおうよ」
「え、でも……いいのかなぁ」
「いいのいいの! 忘れた罰として仕返しくらい――ね」
「うー……ん、でも面白そうかもね! うん、やろうやろう!」
何やらリエルが思いついたようで愛乃に耳打ちした。愛乃は迷っている様子だったけど、面白そうとの事で納得していた。耳打ちなのに俺にも話す内容が聞こえてるのは見て見ぬ振りをしておく。驚かす内容までは聞いてないし楽しみにしておこう。
「というわけで、放課後になったら買い物付き合ってね、久」
「はいはい」
こうやってリエルに振り回されるのも懐かしく感じる。俺は本当にあの時――十一年前と同じこの場所に戻ってきたのだと、改めて実感した。
◆
波乱だった一日目の学園生活もようやく放課後を迎え、その日を終える。最初から最後までクラスの奴に質問攻めを食らって精神的にかなり疲れ切っていた。
正直、親父達と各地を転々としている時でも、ここまで質問攻めにされる事は無かった。質問攻めに慣れているとは言え、数の多さには気が滅入った。
「あはは、人気者だったね久」
「ちょっと妬けちゃうくらい質問されてたもんね」
日が傾き出している下、俺の両サイドを歩くリエルと愛乃が笑いながら茶化して来る。
「あんな人気はコリゴリだ…………というか妬くくらいなら止めてくれよ」
学園からの帰り道、頭を項垂れながら溜め息が零れる。
「皆、久也の事知りたそうにしてるから、止めたら邪魔しちゃうかなと思って」
愛乃の心遣いは嬉しかったが、今回に限ってはそれが仇だった。こんな事なら、素直に助けを求めるべきだった。
しかし、クラスの皆は俺に関してと言うより、愛乃とリエルの二人の事について知りたがっていた。無論、俺の事が全く無かったと言うわけでも無いが……どっちにしろ、助けを求めていたらやぶ蛇だっただろうな。
「こうやって三人で帰るのも久しぶりだよね」
ふと愛乃が懐かしむ様に呟く。最後にこうして三人一緒だったのは……十一年前だ。あの時とは何もかもが変わってしまっている。でも変わっていない空気がここにあった。
「懐かしいね。日が暮れるまで泥んこになって遊び続けてたよね」
「うんうん。それでお母さん達に怒られて、久也が庇ってくれた事もあったよね」
確かにそんな事もあった。あの頃は愛乃とリエルが泣く姿を見たくなかった。それに男の子で、かっこつけたかった。だからあの時は確か――
「俺が冒険に出かけようって言って、庇ったんだっけか」
「そうそう! って久もよく覚えてるね」
「そりゃな」
あの頃の思い出は楽しくて、鮮明に今でも残り続けている。この地を離れていた十一年間、忘れた試しは一度も無かった。
「それで久也……罰として物置に閉じ込められたんだよね。お母さん達に出してきてって、言われて物置の扉開けた時、私達にしがみ付いて来たんだよね」
「う…………そ、そういうのは思っても言わないでくれよ。さすがに恥ずかしい」
「あの時の久、いつも男の子で逞しかったのに、可愛かったよねー」
「私もたまにはあんな久也も良いかなって思っちゃった」
何だこの公開処刑の羞恥プレイは。いや、確かにそんな記憶もあるけどさ……今となっては恥ずかしすぎる!
「あ! 後、皆で街に出かけた時、迷子になって久が泣きそうで、泣かずに私達を引っ張ってくれた事もあったね」
「あの時の久弥、かっこよかったよね……こういうの憧れって言うのかな」
「だーーーっ!! 買い物行くんだろ!? 早く行くぞ!!」
二人の昔話に耐えられなくなって、声を上げて足を速めた。懐かしむ気持ちは分かるが、小さい頃の事を言われると体がむず痒くなってくる。
「わわっ、久也待ってよー!!」
「久、照れてるー」
「う、うるさい! さっさと買い物済ませるぞ!!」
と、先に歩き出したのは良いものの、街が発達してる事もあって買い物する場所なんて分かるわけもなく、結局二人に付いて行くしかなかったのだった。その間、二人の思い出話で公開処刑をされ続けたのは言うまでも無かった――…………。
◆
二人に連れられて来たのは、街の中心部から少し離れた場所にある市場だった。石に整地された広場でテントの下、売り物を広げて、あちこちから宣伝や客入れの声が聞こえてさながらお祭り状態だった。
(凄い賑わいだな……)
十一年前まではこんな賑わい以前に市場そのものが無かった筈だ。ここ数年、ウェルディアが発達した姿を目の当たりにして呆気に取られている。
その中でリエルと愛乃は慣れた動きで市場を歩き回り、店主の人と会話をしながら次々と買い物をし終えていく。
「今日は何か良いの入ってる?」
「おっ、リエルに愛乃か。今日も元気で可愛いな! 今日はそうだな……活きの良い魚が入ってるな」
「本当? それじゃあ一匹買おうかな」
「あいよ、毎度あり!!」
その姿は主婦みたいで、凄く似合っていた――こんな事を二人に言えば、失礼と怒られそうなので黙っておくが。
「お待たせ、久也」
「ほら、荷物持つよ」
「ありがとう。でも荷物全部持って大丈夫なの?」
「これでも男だから力はあるさ」
俺の両手にはいっぱいの食材が下げられているが、大した重さでは無い。弊害と言えば、腕の自由が無いくらいだ。
「お、見かけない顔だな? リエルと愛乃の彼氏さんかい?」
「ひゃうっ!?」「えっ!?」
このテントの店主であるおじさんの一言により、愛乃とリエルは顔を赤く染めて驚いていた。
「ち、違うよ! ま、まだ彼氏じゃないよ!!」
「そうだよ! 久也とはそんなんじゃないから!!」
「久也? もしかして蒼月さんの息子さんか!?」
「そうですけど……?」
「立派になったもんだなぁ。すっかり男らしくなって。小さい頃、よく船に乗せてたの覚えてるか?」
「もしかして船長……ですか?」
小さい頃よく湖で船に乗って、いつも新しい所に行っていた記憶がある。その船を操舵していて、白い帽子を被り、いつもパイプを加えていたおじさんをよく船長さんと呼んでいた。
船長さんはいつも俺達に優しくしてくれて、まだ見たことも無い場所へ船で連れて行ってくれた。最初は湖、見慣れてきたら湖から川へ、最後は海まで行った。それは子供にとっては冒険でいつもはしゃいでいた記憶がある。
昔と変わらない白い帽子を頭に被り、子供の頃よりも大人の風格を増したどっしりとした船長が目の前に居る事実に懐かしさが込み上げて来る。
「やっぱり久也か。いやー大きくなったな! ご両親の仕事はもう良いのかい?」
「いえ、俺が諸事情で一足先にこっちに帰って来てるだけです」
「なるほど。こっちは今、市場も出来て繁盛しているからなぁ。魚介類に関しては俺に任せな」
胸を叩いて、頼り甲斐のある風体を漂わせる船長は、あの時と一切変わっていなかった。
「にしても、まだ彼氏と言われた気持ちはどうなんだ?」
「せ、船長さん!?」
「そんな言葉聞いてませんけど?」
勿論嘘だ。ばっちりと俺の耳にも届いている。しかし下手に発言すれば厄介な事になるのは目に見えている。だから気付かないフリをする。
「本当かぁ? 確かに愛乃がさっき――」
「も、もー! いい加減にして船長さん!!」
「あっはっは、悪い悪い」
愛乃の怒りに船長さんは頭に手をやりながら謝った。まだまだ船長にとって俺達は子供の様だ。逆を言えば、それだけ気に掛けて貰っているということだ。
「ま、何か困った事があったら何でも相談しに来いよ」
「その時は是非頼らせて頂きます」
「愛乃もリエルも気兼ねなく来てくれよな。客じゃなく船長として相談に乗ってやるから」
「え、っと久也。さっきの何でも無いからね?」
船長の言葉を背中に、歩き出しているとシャツの裾を引っ張られる。振り向くと、愛乃が裾を掴んでいて、俺にだけ聞こえるように呟く。長い金色の髪がふわりと流れて、一緒に飛び上がった花の様な香りが鼻を突いて来る。
「そういう事にしておくよ」
「何なに? なんの話?」
「ななな、何でもないよ!」
リエルが気付いて入ってくると、愛乃は慌てながら俺から離れて行く。少し残念と思ってしまったのは気のせいという事にしておこう。
◆
市場から歩く事、数十分。目の前には白く塗装された一軒屋。十一年前と一切変わっていない、俺が住んでいた石造りの自宅がそこに聳え立っていた。
「早く中に入ろうよ」
「お、おう」
妙にリエルが背中を押して、俺を家の中へと押し込もうとしてくる。少しは懐かしさを味わわせて貰いたいものだが、荷物を持ったまま立ち止まるのもあれだし入るとしよう。
中に入ると、誰も住んでいなかったにも関わらず埃一つ溜まってなく、綺麗なままだった。そして奥からは食欲を刺激する香りが漂ってきている。
(妙だな……無人の家の筈なんだが)
もしかして昼間、屋上でリエルが話していた驚かすってのはこの事か? 恐らくそうで間違いないな。それにしても一体誰が?
「おかえりなさーい、準備できてる――…………」
居間へ足を進めると、キッチンで調理をしていた女性がこちらへと振り向いて固まっていた。
アシュライト学園の制服の上に薄ピンクのエプロンを付けている女性は、信じられないものを見たという表情で驚いている。
「ひ、久也君?」
「その声…………姉、さん?」
「やっぱり……久也君なんだ。久也君!!」
「うおっ!?」
俺と確信したのか、姉さんは俺の方に走ってきて抱き付いて来て、思わず両手に持っていた荷物を落としてしまう。そっちに気を取られていると、頭を引き寄せられ柔らかい二つの感触に頭を埋もれさせられる。
「久也君、ほんとに久也君!」
むぐぐ、柔らかい感触に顔が埋もれて息が、息が……気持ち良いけど苦しい。天国と地獄は正にこの状況か。とか言ってる場合でもない!
「むぐ、ちょ、離し――」
「すっかり立派になっちゃって、お姉ちゃん寂しかったんだよー」
俺の言葉など聞いてないようで、姉さんは俺に夢中になっている。
(やば、そろそろ息が……)
天国のような感触に包まれながら窒息死とか洒落にならん。一般的な男としては本望かもしれないが、俺は嫌だ! 胸に埋もれて窒息とか情けなさすぎる!! しかし、離れようにもがっちりと頭を両腕でホールドされていて抜け出せない。
「お姉ちゃん、久也が窒息しちゃうよ!」
「え? わああああ! ごめんね久也君! お姉ちゃんを置いて死なないでえええええ!!」
愛乃の言葉で姉さんは我を取り戻し、俺を胸から離すが、泣きそうな表情でがっちりと抱きついて来る。今度はガッチリと首に腕が入り、窒息に直面していた。
「お姉ちゃん、首! 首!! 閉まってるからーーー!!」
「あーあ……やっぱりこうなっちゃうか」
愛乃と姉さんが慌てる中、その背後で額に手を当てながら呆れているリエルの姿が目に入る。
予想できてたなら止めてくれよ……と。というかこうなる事予想してたなリエルの奴――恨み言を思ってから俺の意識は落ちたのだった――…………。
◆
「ひ、酷い目にあった…………」
帰宅早々、窒息で意識が落ちるとか誰が予測できるのだろうか。出来た奴は超能力者じゃないかと思う。
「ごめんなさい、本当にごめんなさい……」
目の前には正座しながら涙目で謝る姉さんの姿がある。年上の筈なのに、この姿だけを見れば年下の様に思えてしまう。
「まぁ……姉さんの気持ちは分からなくも無いから、お互い水に流そう」
俺も気持ち良い感触を味わえた事だし、どっちもどっちという事でだな。
「久、今エッチな事考えてたでしょ?」
「べ、別に考えて無いぞ?」
リエルにじろっとした目で見つめられ、内心焦ってしまう。どうしてこういう時に限って、妙に鋭いんだよ。
「ともかく! 今後いきなり抱きついて来ないでくれよ。さすがに抱き付かれて頻繁に窒息はしたくないから」
「分かった、気を付ける」
グッと両手で決意を表す姿は昔と変わっていない。
クロエ・フローリア。俺達よりも二つ年上で、家が向かいと言う事もあって、昔から良く面倒を見て貰ったり、お世話して貰ったり、家事をして貰ったりと、俺達に取っては面倒見の良いお姉さんなのだ。
だから俺も愛乃もリエルも、彼女を姉と呼んでいる。血の繋がりは無くとも、彼女は俺達にとっては姉であり家族だ。時々、自分を見失ってさっきみたいに暴走してしまうのがたまに瑕だが。
だがそんな所もあってこそ姉さんは姉さんだ。むしろ可愛らしいと言える。さすがに本人を前にして口に出せるわけじゃないが。むしろ出したらさっきみたいに暴走してまた窒息しかねない。
「リエルちゃんから聞いてたけど、本当にこっちに帰って来てたのね」
「お姉ちゃん、聞いてよ。久ったら、私と愛乃の事忘れてたんだよ」
「久也君、二人の事忘れるなんてダメよ? 女の子はそういうの気にするんだから」
「違う! 二人共、昔と違って綺麗で可愛くなってて分からなかっただけだ!」
「久也、い、今……綺麗で可愛いって」
愛乃が顔を真っ赤にしてもじもじして、自分が言った事を理解する。横に目をやると同様にリエルも真っ赤に沸騰していた。
「あ、いや……その……」
妙に気まずい空気が流れる。誤解だと思って、つい口から零してしまったのは失敗だった。とは言え本当の事だし、今更誤魔化すというのも失礼な気がするので、話す言葉がすぐに出ない。
「そ、そっか……綺麗で可愛かったから、気付かなかったんだ……えへへ」
恥ずかしそうにしながら、嬉しくはにかむのは卑怯だと思う。思わず抱きしめたい衝動に駆られるが、理性をフル動員させて何とか耐える。
「……そういう事なら仕方ないわね、ほんっと」
満更でもない様子でリエルはそっぽを向いて、顔を手で扇いでいた。しかし、そうすぐに顔の熱は取れる事は無い。
俺だって顔に上ってる熱はしばらく下がりそうに無いのだから。
「あらあら、初々しいわね」
「そ、それよりもだ! 気になっていたんだが、何で俺の家に埃一つ無いんだ?」
「それは、私がずっと住んでいたからよ」
「……………………は?」
無理矢理、気になっていた事へと話題を変えたが、予想していない返答が姉さんの口から飛び出した。
姉さんが、ずっと、俺の家に、住んでいた? ちょっとどういう事なのか分からないんだが。
「家って誰かが住んでいないと、定期的に掃除していても傷ついたり、古くなっちゃう物でしょ?」
「それは理解出来るけど……一応、この家、売り出し中の筈だぞ?」
「心配無用。だってこの家、私の家が買い取ったから」
はい? 今、この姉は何と言いました? 姉さんが家を買い取っただって? やる事成す事が斜め上すぎる発言に混乱してきた。
「いつか久也君が帰って来た時に、家が誰かの手に渡ってたら困るでしょ? だからお父さんとお母さんに相談して買い取ったの。格安で、そこまで家計に痛手じゃ無かったから。あ、ちなみに愛乃ちゃんもリエルちゃんも一緒に住んでてそれぞれの自室まであるんだよ!」
現実の状況を目の当たりにして眩暈がしてきた。幾ら何でもありえないだろ普通。
「大丈夫、久也?」
「…………も、問題ない」
「ね? 驚いたでしょ久」
これで驚かない奴はいないだろう……。家を売り出したら、ずっと傍で面倒を見てくれていた姉さんが家を買い取って、いつの間にか幼馴染と姉さんに住まれていて、あまつさえ自室まである。しかもその事をさも当たり前の様に言ってるのだから……いかん、頭が痛くなって来た。
ただまぁ、知り合いが家を買い取っているなら、住む場所に関しては何も問題は無い。もし自宅が購入されたら、その購入金は親父達に届く事になっていた筈だ。ただその金は姉さんからのものと親父達は知っていた。親父達に俺が故郷へ戻るって言った時に、住む場所に関して特に何も言ってこないわけだ。
「でも、今日からは久也君の家よ。おかえりなさい、久也君」
「遅くなったけど、おかえり久也!」
「久、おかえりなさい」
三人から「おかえり」と暖かい言葉を投げかけられて、言葉が出なくなった。俺は間違いなく帰ってきたんだ――あの時と同じ、この場所に。
姉さんが昔話の絵本を読んで、そこに愛乃とリエルが寄り添って、離れた場所に俺が居る。小さい頃から変わらないこの空気の中に。
「…………ただいま」
たった一言。それでも大事な言葉を呟いたのだった。その日の夕飯は豪勢で、俺の好物ばかりで、腹いっぱいまで味わった。
愛乃やリエル、姉さんの家族も一緒に交えて、久しぶりの賑やかな食事だった。皆の家族からは成長したなとか親父達はどうしているかと聞かれたり、娘の成長やら自慢をして充実した時間だった。
その最中、懐かしい姉さんの料理の味に目頭が熱くなったのは、隠しておいた。こういう涙は流すものだが、目の前で泣くのは恥ずかしかったから。