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シャッター
由里は、今日も学校へ急いでいた。
赤色の自転車を今日も全力でこいでいく。
こんな暑い夏の朝だ。彼女の額からは汗が流れる。
遅刻寸前、学校の校門をくぐることが、彼女の毎日の日課だった。
彼女の通学路には河原沿いの道があった。
その川には小さな橋が架けられている。
遅刻するか、しないかの瀬戸際。
それにも関わらず、その橋の手前で、彼女はいつも自転車を一時停止させる。
大きく息を吸って、彼女は上がった息を整えた。
そして、そっと耳をすました。
「カシャ、カシャ……」
さらさらさら、川の流れる音とともに聴こえる、あのシャッターの音。
彼女はその音がとても好きであった。
はっきりとした理由は分からないが、その音を初めて聴いたあの日から、その音の虜なのだ。
やわらかくて、でも潔くて、不思議な感覚になる。
しばらくシャッター音を聴いた後、彼女は思い出したように、自転車のペダルに足をかけた。
急がねば、学校に遅刻してしまう。
彼女はいつもシャッターを切る主を探さなかった。
登校中の彼女には探す時間も無いし、なにより彼女は彼女の意思で探そうとしなかった。