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分母を増やして幸福を誰かと

作者: ツナ缶

即興小説トレーニングhttp://webken.info/live_writing/top.php

というサイトで15分ぐらいで書いたものが、すごく中途半端で悔しかったので最後まで書き切りました。30分程度のクオリティですが、よろしければご一読ください。

 その子は、前々から近かった。慣れ慣れしい、という言い方をしてもいいかもしれない。とにかく、距離感というものが初対面という間柄の割に少なく、近く、気付いたら傍にあるような感覚を想わせた。それは、残念ながら僕だけではなく、他の誰にでもそうだった。男女関係なく、それどころ年齢関係なく、彼女の関わりは何者にも対して近かった。者、という言い方をしてしまったが、物にでもそうだったかもしれない。興味がある物にはすぐ近づき、すぐ関わった。そうして物と関わったことで生まれた別の者とも、すぐに関わりを持つ。彼女の知り合いはまるでネズミ算の如く増えていった。見た目が整い、愛らしいというのも良い働きをすることもあり、悪い働きをすることもあった。

「また告白されたんだって?」

「またって、そんな何度も告白されてるみたいに言わないでよ」

 照れて否定する彼女は、おそらく僕がその事実を知らないと思っているのだろう。高校に入学して、すでに四回目の告白だということを。まだ一か月も経ってないというのに、その成績はずば抜けている。もちろん周りの反感は多分にして買うし、彼女を悪し様に罵る存在も少なくない。

 だが、彼女はそんな存在からも離れるどころか、むしろ関わっていった。人の感情が、空気が読めないわけではない。「それを理解した上」で、彼女はそんな存在と関わる。

 正直、それが僕には異常に見えた。

「変わってるよね、君」

「ははっ、よく言われる」

 笑いながら彼女は自分の膝の上に座る猫の頭を撫でる。綺麗な縞が並ぶ、ここいらで居ついているキジトラ猫だ。

 僕の飼い猫、というわけではない。どこかの飼い猫が逃げ出したのかもしれない。それは、この猫が雄でありながら、その、去勢された跡があることから想像できた。けれど、周囲に飼い猫が逃げ出したという報告はなく、公園に来る人から餌をいただきそれなりに楽しく暮らしていたようだ。

「で、こいつを追いかけていたら、この公園に着いた、と」

「そ。で、君に会ったの」

 ねー。と彼女は猫に話しかける。もちろん、猫の反応はない。自分勝手に、彼女の膝の上に乗っておきながら呑気に寝ている。

「……ねぇ、聞いてもいい?」

「なに?」

「どうして、君は、そんなになんにでも馴れ馴れしいの?」

「……けっこう辛辣な言い方をするねぇ」

 そういう彼女の表情に、少しも傷ついた様子は見えない。隠してるのかもしれないけど、僕には女性のそういった強かな部分を見透かすことはできなかった。

「なんでだろうね。あんまり考えたことはないけど」

 彼女が猫の頭を撫でる。猫は恨めし気に目を開き、また閉じる。

「たぶん、残りたいんだよ。誰かの中に、どんなことでも、できれば……良いことの方がいいけど。そういう、記憶っていうのに」

「……それに価値はあるの?」

「さぁ、どうなんだろうね。それも、結果次第じゃないかな」

 そう言って、笑う。これからを想わせて。未来にある答えを想像して。

「別にね、私が余命幾ばくかの少女とか、そういうわけじゃないよ。大きな怪我もしたことなければ、病気にも罹ったことはない。不慮の事故とかにでも合わない限り、それなりの時間を生きていけると思う」

 それじゃあ、なぜ彼女はこんなにも、手を広げているのだろう。なんでも関わろうとする。けど、決して奥深くまではいかない。浅い付き合い、というと彼女にとても軽薄な印象を与えるが、それも間違ってはいない。深入りはしなくても、彼女はいつも誰かの中心位置に在ろうとする。

 それは、とても危なげに見えた。

「楽しいから、かな。人と関わるって、どうしたって何かを生むよね。楽しいことも、悲しいことも。どうしたって、何かが生まれる。それを煩わしいって思う人もいるけど、私は逆なんだ。関わって、触れ合って、そういうのがすっごく楽しいの。辛いことも……まぁあったりするけど」

 彼女の指先が猫の首筋を撫でる。驚いたのか、猫が顔を上げて彼女の顔を見る。そのことに彼女は気を良くしたのか、撫でるのではなく指で掻き始めた。猫は首を曲げ、嫌がっているのか喜んでいるのかよくわからない表情を浮かべる。喉を鳴らさないから、嫌がっているのかもしれない。

 けど、猫は彼女の膝からどかない。嫌がっても、猫なりに煩わしいと思っても。

 彼女の膝の上から、その体をどけようとはしなかった。

「何も生まない人生よりは、何かを生み出したいじゃん。何が起こるかわからないんだからさ、良いことが増える確率を増やしてった方が、なんかほら、建設的? じゃん?」

 言いながら自分の言葉に自信がないのか、照れてるのか、苦笑いを浮かべて彼女は笑う。

「……そっか」

 彼女の生き方は、とても危うい。危なげで、見ていてハラハラする人もこれから先たくさん出てくるだろう。

「それじゃ、早速僕にも関わってもらおうかな」

 ベンチから立ち上がり、一度大きく伸びをする。僕の動作に驚いたのか、猫も顔を上げる。その猫の頭を撫で、彼女が口を開く。

「ん? 何が?」

「その猫に、ノミ取り用のシャンプーをしてあげようと思ってさ。そいつに関わった人皆、後からノミに食われて大騒ぎしてるのがそろそろ見てられなくてさ」

「そ、そういうこと先に言おうよ!?」

 ノミをふんだんに携えた猫を膝に乗せている事実に慌てふためく彼女に、僕は思わず笑ってしまう。

「関わって生きていくんでしょ? ほら、まずはノミ取り用のシャンプーを買ってこようか」

 僕も、僕なりに関わってみる。勇気、とまで言えるほど尊く、健気なものには思えないけど。

 同じクラスの、人気のある女の子と二人きりで歩き回るなんて、きっと良い思い出になるだろうから。

あー猫可愛がってる女の子と一緒に放課後歩き回りたいあー猫可愛がってる女の子と一緒に放課後歩き回りたいあー猫可愛がってる女の子と一緒に放課後歩き回りたいあー猫可愛がってる女の子と一緒に放課後歩き回りたいあー猫可愛がってる女の子と一緒に放課後歩き回りたい

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