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二.四 戦争も省エネでね?

「……虎の子の無人戦闘機、全五〇機が撃墜?」

 世界の若き代表者、国連事務総長ホース・アークマン氏。年齢にしてまだ三〇代という若さで国連事務総長の地位に登りつめた男です。

 最近は十歳年下の恋人と結婚して、甘い新婚生活を始めたばかりでした。それが、ここの所はヘリカルコイラーによるテロの影響で仕事に忙殺される毎日。新妻とは結婚以来、ずっと御無沙汰なのでした。

 そんな状況の中、事態の早期解決を図るため思い切って投入した国連の戦闘機が、ことごとく撃墜されたという報告を受け取ったのです。事務総長さんは信じられない様子で、椅子の背もたれに倒れ込むようにして寄りかかりました。


 ですが、その報告を信じないわけにはいきません。なぜなら、本来の予定では戦闘機に撃墜されてここまで――国連本部まで辿り着くはずのなかったヘリカルコイラー∞フューナが、今こうして彼の目の前に立っているのですから!


「……さて、事務総長さん? この落とし前はどうつけてくれるのかしら? 私はあなたの召還に応じてはるばる遠方から飛んで来たってのに、ああいう歓迎の仕方はないと思うのよ」

「い、いや……これは……」

「ああ、言い訳があるの? いいわよ、見苦しいけど特別に聞いてあげる。でも、聞くだけ聞いて、許さないから。はい、どうぞ」


 フューナちゃんの傲慢な態度に耐え難い屈辱を感じた事務総長さんは、つい声を荒げて子供を叱りつけるような口調になってしまいました。

「……だ、大体だな、君は何様だ? 核融合親善大使だかなんだか知らないが、INPAに与えられた立場と権限を濫用して……君は何をしているんだ、何を! 核エネルギー制裁なんてテロリストの真似事をして、これだから最近の子供は限度というものを知らない! 第一、小学生のくせに大人ぶって……まだまだ発育途上じゃないか!」

 言い訳の最後は何故かフューナちゃんの体の発育にまで言及し、事務総長さんに情状酌量の余地はなくなってしまいました。


 フューナちゃんの静かな怒りが炸裂します。

「……黙れ、駄馬(だば)。お前なんか、絶滅しちゃえ」

 フューナちゃんはヘリカルステッキを、事務総長さんの股間の辺りに向けました。


 ジジジ……。


「な、なにを……?」

「別に。ただあんたの睾丸にガンマ線を照射してあげただけよ。良かったじゃない? これでいくら××××して遊んでも子供なんかできないわよ」

「ぎゃああぁ……!! あ、ああ……そんな……」

「人でなし……」

「……あんたも根絶されたい?」

 その人間の種としての存続を絶つ。これはある意味、死刑の次に残酷な刑罰ではないかとワンコロは思いました。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 国際連合本部までを制圧し、向かうところ敵なしとなったフューナちゃんでしたが、さすがに連日の核融合親善大使の仕事でお疲れ気味です。

 たまには自宅に戻ろうかと、久しぶりにアキハバラの街へと帰ってきました。


『核融合で世界のエネルギー問題を一発解決! ヘリカルコイラーが保証するわ!』


 アキハバラ電気街のビルに設置された大型モニターでは、ヘリカルコイラー∞フューナによる核融合推進のコマーシャルが流されています。道行く人たちもフューナちゃんの力強い声に振り返り、キュートで冷めた笑顔に目を奪われていました。


「ヘリカルコイラーか~。久々にアキハバラ発のアイドル誕生だな」

「彼女のおかげでこの街にも核融合炉の建設が決まりましたからな。さすが核融合親善大使!」

「フューナちゃん……いいですよねぇ」

 ただ今、世界規模で人気爆発中のヘリカルコイラー∞フューナ! その経済効果はここ三ヶ月だけでも、エネルギー通貨に換算して二〇兆Jとされています。


「すごい人気だね、ヘリカルコイラー∞フューナは」

「当然よ。私がわざわざ核融合推進活動の一環として、広告塔になってあげたんだから」

 そんな人気者のヘリカルコイラー∞フューナでしたが、現在は普通の女の子、冬奈ちゃんとして、ワンコロを従えながらアキハバラの街を散歩しているのでした。

 一時期、ワールドネットでも話題になった冬奈ちゃんでしたが、後から出てきたヘリカルコイラー∞フューナのインパクトが強すぎて、変身前の冬奈ちゃんのことに気がつく人は、アキハバラの街中でもほとんどいません。


 でも、冬奈ちゃんはそんなことでヘソを曲げたりしません。むしろこの状況を楽しんでさえいるのです。

「ふふ……何だかおかしい。笑っちゃうわ」

 世界を動かしている自分が、よもや人ごみに紛れて散歩していようとは誰も思わないだろう、と奇妙な優越感に御満悦の様子です。

 ワンコロとしても、冬奈ちゃんが大人しい普通の女の子でいる時の方が、ヘリカルコイラー∞フューナとして活動している時より、よっぽど安心です。例え、鎖と首輪でしっかり手綱を握られていても、これはこれで悪くないと思えてしまうほどでした。


 そんな彼らの頭上を、大きな影が通過しました。左右に大きな映像パネルを備えた宣伝用の飛行船です。

 ヘリカルコイラーによる核融合の宣伝が流れた後、続けて別の宣伝が始まりました。


『大きいお兄さん達、こんにちは! ラジカルアトミッカー=ルミナだよ!』


 大型爆撃機が大量の爆弾を投下している映像が流れた後、武装少女ラジカルアトミッカーのコスプレをしたツインテールの少女が猫を肩に乗せて何やら宣伝をしています。


『限られた資源は大切に使おう! 戦争も省エネでね?』


 背後では何か大きな建物が爆発を起こして、粉微塵に吹き飛んでいます。

「あれれ? 冬奈ちゃん、おかしいよ、あの映像。記録動画じゃなくて、リアルタイムの映像が流されているみたい……。しかも、あの背景の建物って国内の核燃料製造工場に見えたんだけど……」

 ワンコロは自身の解析能力で偶々気がついた事実を、独り言のように呟きました。呟いてから冬奈ちゃんの方に向き直り、ワンコロはそのまま硬直しました。


「なんのつもりなの、あれは……!」

 怒りの形相で震える冬奈ちゃん。いったいどうしてこんなに激怒しているのか、ワンコロは思い至らず、視線を逸らしてただただ体を硬直させています。

「ワンコロ! 今流れていた映像の場所を特定しなさい!」

「りょ、了解! ……えっと、一応聞いておくけど、何で?」

 反論を許さぬ冬奈ちゃんの冷たい視線がワンコロを射抜きます。愚問だとでも言いたげに、への字に曲がった口を開いて冬奈ちゃんは言いました。


「私はね? ラジカルアトミッカーが、大嫌いだからよ……!」


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