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一.四 旧型原発は消去(デリート)

 変態さん撃退の一件で、ヘリカルコイラー∞フューナは一躍有名になりました。特に、地元アキハバラの盛り上がり方は一種異様な雰囲気でした。

『フュ~ナたーん……!』

『ヘリカル! コイル!』

 いったいアキハバラ電気街のどこに潜んでいたのか、今や歩行者天国はフューナちゃんファンのオタク達で賑わっていました。


「いいよね、フューナたん。何がいいって、あの可愛い顔で素っ気無い態度! 萌える~」

「フュ、フューナちゃんのブ、ブ、ブロマイド、もう売り切れか~……」

「ヘリカルコイラー∞フューナ……ああっ、早く彼女の等身大フィギアが欲しい!」

 ブロマイドにフィギュア、果てはゲーム化にアニメ化と、ヘリカルコイラーは驚異的な愛らしさでもって、倫理を超えた人気を獲得しました。今まさにアキハバラでは、ヘリカルコイラー∞フューナに注目が集まっているのです。


「……けどさ、ワールドネットの噂だけど、ヘリカルコイラーって旧型原発をぶっつぶす、って宣言したんだろ? ラジカルアトミッカーズの再来になったりしないよなぁ……?」

「いやぁ、それはないっしょー。だってINPAの核融合親善大使だよ? ラジカルアトミッカーズみたいな凶行に走る理由ないよ」


 中には、ラジカルアトミッカーズの起こした原子力テロが再現されるのではないかと危惧する人達もいました。しかし、そのことはすぐに彼らの認識を改めることになります。

 ――その時、既にヘリカルコイラー∞フューナは、核融合親善大使の仕事を本格始動していたのです。

 それこそ、ラジカルアトミッカーズ事件とは比較にならない規模の活動として……。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 アキハバラの街にそびえ立つラジエーションセンタービルの屋上、そこに小さな人影がありました。

 ビルの屋上から、アキハバラの街を一望するのはヘリカルコイラー∞フューナです。

「あれが秋葉原発ね……」


 秋葉原子力発電所は、二〇二〇年から稼動を続けてきた秋葉原発一号炉の高速増殖炉じゅまんじゅに加えて、より一般的であった軽水炉の二号炉、三号炉を有する発電所です。

 ところが、燃料となるウラン資源が底を尽きてしまった二〇五〇年現在、秋葉原発は電気使用量の多くなる真夏の一時期だけ、備蓄燃料を消費して発電するという変則的な運転を強いられていました。


「さ、まずは手始めにアキハバラの旧型原発を消去(デリート)ね。前から目障りだったのよ。……まったく、誰? 街中に原発なんか建てたのは? 稼働率の低い原発は維持するだけ無駄だわ。即解体よ!」

 フューナちゃんは右手に持った杖を前に突き出し、左腕で右腕を支え、手ぶれを防ぎながらゆっくりと目標に向けて狙いを定めます。杖の先端は、真っ直ぐに原子力発電所の方を向いていました。


「超電磁誘導加速砲……マグネティックフィールド展開……」

 フューナちゃんの声に従い、杖の先端にあるコイルから強力な磁場が発生しました。コイルの中にはちょうど単三乾電池ほどの物体が浮いています。

 同時に、ワンコロの危険物質感知センサーが、浮遊する物体に対して警報を鳴らします。

「ちょっと待って、フューナちゃん! 一体、何をする気だい!? 原子力発電所を解体するときは、ちゃんと手順に従って解体していかないと……!」


「解体にお金をかけるなんて勿体無い……。爆破処理してしまえば一発じゃない」

 どうやら謎の浮遊物体は、何らかの爆発物だったようです。フューナちゃんのやろうとしていたことに気がついたワンコロは、必死で説得を試みます。

「原子力発電所をそんなふうに壊しちゃだめ! 放射能汚染のある建材が飛散してしまうよ! 長年、強い放射線に曝されてきた構造物は、高レベルの放射能を持つようになるんだから!」

「うるさいわねえ……。知っているわよ。放射性物質=汚染物、つまり犬の糞より汚いって言いたいんでしょ?」

「確かに汚いんだけど……例えが悪いよフューナちゃん。それに、放射能汚染はただ汚いって言うんじゃなくて、長年に渡る影響が……」

「あー、はいはい。小難しい説教は聞きたくないわ。そもそも犬の分際で人間様に説教するってどういうつもり? 自分の方が頭いいとか優越感に浸っているわけ? 舐めるんじゃない、ワンコロ!!」

「そ、そんなこと言ったって……。せめて、三十年くらいは建造物の放射能に対する冷却期間を置いて、それから丁寧に解体していく必要があるんだから……」


「三十年? そんなに待ってられないわよ。はい、破壊決定!」

「ワァー!?」

 ヘリカルステッキの先端から、音速を超える加速を持って飛び出した物体が、秋葉原発の高速増殖炉じゅまんじゅの炉心に突き刺さります。

「ブレイク!」

 フューナちゃんがパチンと指を鳴らすと、高速増殖炉じゅまんじゅは盛大に炎を噴出して、二号炉、三号炉を巻き込む大爆発を起こしました。


「うわわ……なんてことを……」

 施設は全壊、放射能を帯びた建材があちこちに吹き飛び、アキハバラの街中に放射能汚染物質が飛散する結末になってしまいました。

「さあ、次々行くわよー! 年間稼働率六〇%を下回るような原子力発電所は非効率! 人類にとって不利益だわ。破壊よ――!」

 フューナちゃんは意気揚々と旧型の原子力発電所を潰して回り始めるのでした。


「ああ……やめて。もうやめてー……フューナちゃ~ん……」

 ワンコロの悲壮な叫びは、非情の核融合親善大使ヘリカルコイラーには、決して届くことはありませんでした。

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