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五.二 炉心融解(メルトダウン)

「超電磁誘導加速砲、斉射!」

 先手を打ったのはヘリカルコイラーでした。

 海面に散らばる巡洋艦の破片を弾丸に、モビルコイルからいわゆる普通のレールガンが一斉に撃ち出されます。ラジカルアトミッカーの全方向を囲んだ逃げ場なしの必殺攻撃。


「逃げて! ルミナちゃん!」

「わわっ!」

 レールガンの弾をモビルユニットが身を挺して防いでいる間に、原子力エンジンによる急発進でルミナちゃんは空高く飛び上がり、モビルコイルの包囲を突破しました。

 ランドセルの原子炉が、制御棒をわずかに伸ばして出力を調整、ホバリングをしながら自動でエネルギー充填を開始します。


「反撃だよ! 電子砲を使って!」

「でも! 相手はお友達なんだけど……」

「きっと他人の空似さ! 友達がいきなり攻撃を仕掛けてきたりする? 迷っている暇はないよ!」

「う、う~ん……もう、よくわかんない! 高エネルギー電子砲発射!」

 ルミナちゃんは難しく考える事をやめ、上空から電子砲を放ちました。砲口から真っ白な光の奔流が流れ出し、フューナちゃんを飲み込みます。

 しかし、光はフューナちゃんを避けるように折れ曲がり、何も無い地面を赤く焼いただけでした。


「何で!? 当たらない――」

「馬鹿ね、磁場障壁ってやつよ! ビーム兵器なんて効かないんだから!」

 再びモビルコイルを整列させると、今度は巨大な火球を作り出して、空に浮かぶルミナちゃんへ向けて飛ばします。小さな太陽のように橙色に輝く火球が、不規則な軌道を描きルミナちゃんへ肉薄します。

 高速で縦横無尽に逃げ回りながら、ルミナちゃんも負けじと荷電粒子砲を発射します。虹色の雷を伴う光の衝撃波が火球を掻き消し、その先にいたフューナちゃんを強力な風圧でもって襲いました。

「わ、きゃあ!」

 舞い上がるスカートを押さえ足を閉じようとしたところ、踏ん張りが利かずにフューナちゃんは堪らず吹き飛ばされてしまいました。


「これなら、効くかも!」

 追撃は劣化ウラン弾による連続砲火。

「ちっ……加速(アクセラレート)!」

 これを防ぐのは無理と咄嗟に判断して、フューナちゃんは周囲に展開させたモビルコイルを踏み台としてジグザグに飛び回り、徐々に加速をつけてルミナちゃんを翻弄します。


「遠距離での撃ち合いじゃ埒が明かないわ……。近接戦で決着を!」

 ヘリカルステッキの先端に鉄塊を集め、急加速をしながらルミナちゃんに殴りかかります。攻撃はルミナちゃんの背負うランドセルを直撃し、衝撃をまともに受けたルミナちゃんは地面へと斜め四十五度に叩きつけられ、二度、三度と弾みながら、五百メートルほど滑走してうつ伏せに倒れました。


「うひゃあぁ……フューナちゃん、君って子は……」

「何か文句でもあるの? ワンコロ」

 あまりにも激しい地面との衝突と摩擦で、ラジカルアトミッカーの衣装はあちこち擦り切れ、三つ葉マークのお子さまパンツには幾つか小さな穴も開いてしまいました。


 もうもうと煙を上げながら地面に倒れ伏すルミナちゃんを、フューナちゃんは蛆虫でも見るかのように冷たい視線で見下ろします。

「さて? ラジカルアトミッカー=ルミナ。これで実力の差は明らかになったでしょう。抵抗は無駄よ、大人しく投降しなさい。と言うか、いつまでもそんな恥ずかしい格好で、子供じみた魔法少女ごっこはやめなさい。これは遊びじゃないの。人類のエネルギー問題を解決する為の戦いなの。素人が首を突っ込む話じゃないんだから」

 何となくフューナちゃん自身にも返ってきそうな台詞でしたが、ワンコロは敢えて何も言いませんでした。口にすれば最後、ヘリカルハンマーで撲殺されるに決まっています。


「ルミナだって……遊びじゃないもん」

 フューナちゃんの忠告が聞こえたのか、ルミナちゃんはよろよろと立ち上がり、フューナちゃんに向かって言い放ちます。

「いくらフューナちゃんでも、ルミナは怒ったから!」

「な、何よ、本気になって……。ル、ルミナのくせに生意気よ!」

「また、そういうジャ○アン的な発言をする……」


 その時、ぽふぽふぽふ……と、気の抜けるような音が聞こえてきました。音のした方を見れば、ネプニムが前足を器用に合わせて、肉球同士を打ち合わせ拍手しています。

「その意気さ、ルミナちゃん。ラジカルアトミッカーの限界はまだまだこんなものじゃないんだ。僕が力を引き出してあげる。君の本気を見せてやるといい……」

 ルミナちゃんの背負ったランドセル、その小型原子炉にネプニムが銀白色のデーモンコアを放り込みました。


「ラジカルアトミッカー! 再稼動だ!!」

 ネプニムのこの言葉に反応して、ランドセルの制御棒が目一杯に飛び出しました。原子炉内の核燃料が臨界超過を引き起こし、強烈なチェレンコフ光が漏れ出します。

 ラジカルアトミッカーの腕章がこれまでになく光り輝き、『臨界超過警報!』の表示が流れ始めます。そしてルミナちゃんは宙へ舞い上がると、荷電粒子砲の照準をゆっくりと目標に合わせるのでした。


 これに対して、ちょっと油断して動きの遅れたフューナちゃん。ロックオンされると同時に慌てて防御体勢を取ります。

「マグネティックフィールド全開!!」

 モビルコイルを盾に、地中の鉄成分が浮き上がるほどに強力な磁場障壁を形成して、敵ラジカルアトミッカーの荷電粒子砲攻撃に備えます。


「目標、ヘリカルコイラー! 撃てぇっ!」

 ネプニムの合図に、出力最大で荷電粒子砲が虹色の光を吐き出しました。光の拡散規模は立体角にしてほぼ半球となる範囲です! 逃げ場はありません。フューナちゃんは攻撃を全て受けきらないとなりません。

「くぅっ……! 出力が、桁違い……!」

 荷電粒子の光はフューナちゃんを迂回して周辺の土壌を蒸発させていましたが、徐々に光の密度は増していき、やがてフューナちゃんを包み込むように磁場障壁の領域を狭めていきます。


「あ、熱っ! フューナちゃん! まずい、まずいよ! 磁場障壁じゃ防ぎきれない!」

 ワンコロは体と尻尾を丸めて、フューナちゃんの足元に寄り添います。それでも、少し動けば荷電粒子の嵐に巻き込まれそうな状態です。

「黙れ、駄犬! ぎりぎりまで磁場を絞っているだけ! あと少し踏ん張れば……」

 フューナちゃんの表情に焦りの色は見えません。時間にしてわずか、しかし気の遠くなるような一瞬が経過して、不意に磁場の障壁が広がりを持ちました。


「今なら、押し返せる……けど、ここは――」

 フューナちゃんは自身の細い腰を取り巻く動力炉、ヘリカルコイルの発熱に耐えながら、磁場を細やかに制御して荷電粒子の嵐を凌ぎます。やがて、荷電粒子の嵐がぱったりと途絶えた後、赤く滾った大地の中心には無傷で立つヘリカルコイラー∞フューナの姿が!


 一方のラジカルアトミッカー=ルミナは――?

「あ、あああ、あっつぅ~い!! うわーん!」

 過熱状態になったランドセルがルミナちゃんの背中をじりじりと焼いていました。

 たまらず制御棒を収めて海中に飛び込みますが、青いチェレンコフ光は全く収まる気配を見せません。さらには連続する水蒸気爆発で海中へ突っ込んでは弾き出されてしまうルミナちゃん。どうしようもなく、辺りをめちゃくちゃに飛び回っています。


「これは――暴走?」

「原子炉と核融合炉の差。それが、この結果よ」

 ワンコロは半ば呆然とルミナちゃんの様子を眺めていましたが、フューナちゃんの一言でようやくそれが防御に徹していた彼女の狙いであったことに気がつきます。

「制御系統も熱の影響でまもなく狂い始めるわ。暴走を始めた原子炉は自然に停まることはないの」


 ――ぼんっ、と、ランドセルの制御棒がいっぺんに飛び出しました。原子炉は制御を失い、生産したエネルギーを消費する事も出来ずに蓄積し、炉心はどこまでもヒートアップしていきます。


「ど、どうして……? なんでフューナちゃんは、ルミナの邪魔するの? ルミナは原子力のお勉強中なんだよ。とっても大事な、お勉強の最中なの……。そうすればフューナちゃんとも、もっと仲良くなれると思ったのに……」

「そう……、それは感心ね。認めてあげる。だから、もう馬鹿な事はやめて。いつものあなたに……ほんわかふわふわで私の大好きな留美菜に戻ってちょうだい」

「ふ……冬奈、ちゃん?」

「本当に留美菜は馬鹿……。私が嫌いなのはね、私からパパとママを奪った原子力テロ」

 ラジカルアトミッカーの装備が、熱応力の限界を迎えて崩れ始めます。ラジカルアトミッカー=ルミナが、ただの留美菜ちゃんへと戻っていくのです。


 ――炉心融解(メルトダウン)


 ラジカルアトミッカーのランドセル型原子炉は熱暴走の果て、その強度を保てず、ついに融け落ちていきました。


「テロを起こした元凶と、それを口実に利益を得てきた全てのもの……。全部、消し去ってしまいたかっただけ……」

 浮力を失って落ちてくる留美菜ちゃんを、フューナちゃんは優しく受け止めます。

「でも、大切な今の幸せを失うのは嫌だから。子供じみた復讐もこれで終わり……ね」

「冬奈ちゃ~ん……うぅ、ひぐっ」

 フューナちゃんのぺったんこな胸に濡れた顔を押し付けて、留美菜ちゃんは大きな声を上げて泣き出しました。


「こ、こら、泣くんじゃないの! 第一、私は柏崎冬奈じゃなくて、ヘリカルコイラー∞フューナなんだから! そこのところ、重要よ! いいわね!」

 夕日の落ちる地平線を背景に、留美菜ちゃんと冬奈ちゃんは仲直りを果たしました。そして二人は、喧嘩する前よりもちょっぴり……いえ、とっても仲良くなったのでした。

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