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秋葉原発! ヘリカルコイラー∞フューナ ~旧型原発はデリート~  作者: 山鳥はむ
第四章 原子力安全委員会は五人で組織する
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四.二 遊離戦隊スカベンジャー

 取り出されたのは銀白色の丸い塊でした。

 全部で八個あるそれらを、モビルユニットが一つずつ抱え上げ、ネプニムの周りを飛び回っています。

「これが……デーモンコア?」


「そうだよ。今は八つの小さな塊に分けられているけど、これらを一つの塊にすると臨界量に達して連鎖反応を起こすんだ」

「ついに間近で見られるんだね、連鎖反応が……」

 ルミナちゃんはうっとりとした瞳でデーモンコアを見つめました。まるで恋焦がれた相手が目の前にいるかのような表情で、銀白色の物体に熱い視線が送られます。


「さあ、始めようかルミナちゃん。とっても楽しい原子力のお勉強を……」

 ネプニムは背中から光の羽を生やして飛び立ちます。モビルユニットもネプニムに続き、アキハバラの空へと舞い上がりました。

 ルミナちゃんも同様に、原子力エンジンを勢いよく吹かして、アキハバラの空へ飛び立ちました。上空からは、アキハバラの日暮れに灯る電気街のネオンがよく見えました。


 その情景にルミナちゃんが目を奪われていた時です。――ぽんっ。と、高度を上げようとしていた一体のモビルユニットが、バラバラに弾けてデーモンコアを取り落としてしまいます。

 続けてもう二体、ぽぽんっ! と弾けて、デーモンコアは地面に向かって落っこちていきました。

「――デーモンコアが!」

「待って、ルミナちゃん! 今のは、モビルユニットが狙撃されたんだ! 近くに敵がいるんだよ! 気をつけて!」

 落ちていくデーモンコアを追おうとしたルミナちゃんに、いち早く敵の気配を察したネプニムが制止の声をかけます。その瞬間、さらに四体のモビルユニットが撃墜され、残すは後一体になってしまいました。


 ネプニムが小さく舌打ちをしながら辺りを見回します。ルミナちゃんも狙撃してきた敵の姿を探します。

「近くに、って……。あ! ……敵さんって、ひょっとしてあれ? あの人達のこと?」

 ルミナちゃんが指差したのは、アキハバラ電気街の歩行者天国に佇む五つの影でした。

 赤、青、緑、金色に、ピンク色。色取りどりの五色の影は、全身を各色で染め上げたタイツ姿の集団でした。


 デーモンコアは重力で加速しながら落下していき、その下に待機していた怪しいタイツ姿の人達の手元に納まります。

 カラフルなタイツ姿の人達は、デーモンコアを一つずつ金属の箱にしまうと、空に浮かぶルミナちゃんとネプニムの姿を見上げて大声を上げました。

「ラジカルアトミッカー! そして、ネプニムとやら! デーモンコアは我々が回収した! お前達の悪行もこれまでだ!!」

「……なんだって言うんだい、君たちは……」

 モビルユニットを一気に七体も撃墜され、デーモンコアを奪われたネプニムは、静かな怒りを瞳に宿し、地に立つ五色のタイツ姿を冷たく見下ろします。


「私は、レッド!」

 怒りに震えるネプニムを挑発するかのように、赤いタイツ姿が自分の色を叫びます。

「ブルー!」

「僕はグリーン!」

「あたしはピンクよ~ん」

「俺はゴールドだ!」

 五色のタイツ姿は、見れば一目でわかるような名乗りを上げ始めました。そして、五人揃って好き勝手なポーズを取ると……。


『我らこそ! 原子力の安全と信頼を守る! 遊離戦隊スカベンジャー!!』


 厳戒態勢の敷かれた無人のアキハバラに、遊離戦隊スカベンジャーの名乗りが響きました。決めポーズのままゴールドが隣のグリーンに囁きます。

「なあ、なあ。やっぱりギャラリーがいないと盛り上がりに欠けないか?」

「あ~、それ、僕も思った。一人の応援もないと、いまいち誰かを助けるヒーローの実感が湧かないよね」

「何言っているんだ! ヒーローって言うのは、人知れず活躍するものだろう!」

 ゴールドとグリーンの不満な声に、レッドが叱咤を飛ばします。


「どっちでもいいから、早くポーズを解いて臨戦態勢に入れ! ラジカルアトミッカーが仕掛けてくる!」

「やーん……! 凄い勢いでこっちに向かってくる~!」

『何!』

 ブルーの注意にレッド達が気づいた時には、ラジカルアトミッカーは空から急降下して、スカベンジャーの目前まで迫っていました。


「あはは! もしかして、もしかして! 五色のタイツさん達は正義のヒーローなの? ルミナもネット映像で見たことあるよ、五人組の編隊ヒーロー!」

「こら! 編隊ではない! 戦隊ヒーローだ! そこ、誤解しない!」

 ルミナちゃんの編隊(へんたい)発言に、何か特別なこだわりでもあるのかゴールドが猛抗議をします。ですが、ルミナちゃんの方は本物のヒーローに出会えた事で興奮気味。ゴールドが言っていることなど何も聞こえていない様子です。


「えー? なーに? 金ピカの人、何言っているの? あ、ごめん。耳栓つけっぱなしで聞こえなかったんだ。取らないとお話も出来ないよね?」

「ルミナちゃん!? あ、あ! 駄目だよ、耳栓取っちゃ……」

 今度ばかりはネプニムの制止も間に合わず、ルミナちゃんはずっと付けていた、にくきゅー耳栓を外してしまいます。


「……ラジカルアトミッカー……ルミナちゃん、と言ったかな? 君は、自分のやっていることを……悪事に加担しているということを理解しているのかな?」

 無邪気な笑顔で近づいてくるルミナちゃんをやや警戒しながら、レッドが正義の心を問い質します。

問われたルミナちゃんはきょとんとして、何を言われているのかわからない様子です。


「悪事? うーうん! ルミナはただ、ネプニムと一緒に原子力のお勉強をしていただけだよ。だから何も悪いことはしていないの」

「本気で言っているのかい? 君が暴れたことで、大勢の人が被害を受けたんだ。そのことも悪いとは思わないと?」

「お勉強の邪魔する悪い人ならやっつけたけど……? でもそれはルミナの邪魔した人達の方が悪いんだよ。じごーじとく、なの」

 全く悪意のないエゴイスティックな笑顔を浮かべるルミナちゃんに、スカベンジャーの面々は言葉もありません。


「そうさ、僕らはただ純粋に、原子力の勉強をしていただけなのに……どうして邪魔をするんだい? ……さ、僕から取り上げたデーモンコアを返してもらおうか。強盗は重い罪だよ。返してくれないのなら、君たちは悪だ。悪者は、ここにいるラジカルアトミッカーが許さない。ね、ルミナちゃん?」

「そうだ! 忘れていたよ! デーモンコア、返して! あれがないと、原子力のお勉強ができないの! ねえ、早く返してー。編隊(へんたい)ヒーローさん、悪者じゃないんでしょ? だったら、ルミナの邪魔しないで」

 両手を前に突き出して、おねだりのポーズを見せるルミナちゃん。


 あまりにキュートなその姿にグリーンが、

「う、うん! 僕らスカベンジャーが悪者なわけないじゃない! 当然、ルミナちゃんも悪いことはしないよね? だったら、デーモンコアは返すよ、はい」

「わあ! ありがとう、緑色のお兄さん!」

 思わずルミナちゃんにデーモンコアを返そうとしてしまいます。

「グリーン! よさないか!」

「だ、だって、レッド……。こんな小さくて可愛い女の子が、原子力を悪用して世界を滅ぼすなんてこと、考えるわけないよ……」

 ルミナちゃんに手を握られて、もじもじしながらグリーンはレッドに弁解します。もちろんレッドも、ルミナちゃんが純粋に原子力のお勉強をしている、と言うことについては嘘でないと思っています。


「だけど、仮に彼女に悪意がなくても、彼女を操る者までそうだとは限らない。そうだろう、ネプニム……いや、お前の正体は既に調べがついている。ミュータント=ネプニム。お前の企みはすべてお見通しだ!」

「……みゅう、たんと? みゅうたん、とネプニム? みゅうたん、って誰?」

「違うよ、ルミナちゃん。ミュータントと言うのはね、僕のような突然変異で生まれた生物のことをそう呼ぶんだ。ミュータントには、自然発生的に生まれるものもいるけど、人工的に放射線を照射することで生みだされるものもいる。僕の場合は後者に当たるかな」

 ネプニムは自嘲気味に語り出します。ひょい、とルミナちゃんの肩に飛び乗ると、スカベンジャーの死角になるよう尻尾を動かし、にくきゅー耳栓をこっそりルミナちゃんの耳にはめ込みました。


「詳しいことは僕にもわからないけど、たぶん僕のお母さんが原子力発電所の管理区域にこっそり立ち入った時に、お腹にあった僕の卵が放射線の影響を受けたんだろうね。そうして、僕が生まれた……」

「だから、お前は人類に復讐をすることに決めた。違うか? もう一度言う、お前の企みはわかっている。このプルトニウムで原子爆弾を作り、東京の壊滅を狙っているのだろう!」

「え? なになに? また聞こえなかった。赤色のお兄さんは何を言ったの?」

「ふ、ふはは……愚かだねぇ。スカベンジャー=レッド、君は本当に愚かだ。考えが浅いんだよ。僕が人類に復讐? そんなことして何になるのさ!」

「違うというのか!? なら、何を狙っている!」

 狼狽するレッドに対して、ネプニムは不敵に笑ってみせます。


「何を狙うかって? 何てことはないよ、とっても単純なことさ! 僕はただ、自分が住みやすい世界を! 放射能に満ちた活気溢れる世界を望んでいるだけなのさ!!」


 ネプニムの最終目的、それはただ、自分にとって住み心地のよい環境を作る――即ち、世界全土に放射性物質をばらまくことだったのです。

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