序章 現れる店
この世界にはいろんな場所や景色がある。それは時によって姿、形を変えるだろう。だから全く同じ風景なんてものは存在しないのだ。
2月の冷たい風が吹きつける中、俺、早苗唯一は学校から家へ帰宅するためこの長い帰路をゆっくりと歩いていた。ふと顔をあげると鳥が二羽頭の遥か上を通過していった。家が住宅外にあるため歩を進める度に人気がなくなっていく。静かな道をしばらくいくと一つの店が目に入った。俺は首を傾げた。なぜなら今日の朝までこんな所にこのような店はなかったからだ。ここは家からそう遠くない。もし前からここにあったなら一度ぐらいお目にかかっていてもおかしくないはずだ。こんな人のいない場所に店など作って繁盛するのだろうか、もしかしたら店ではないのだろうか。そんな疑問をよそに店はどんとそこに建っている。俺はどうしても気になって店に入ってみることにした。
カラン、カランという音をたてドアが開いた。
そもそもここがどのような店かわからないためどういった感じで対応すればいいのかわからなかった。店の外見は至って普通の喫茶店のような感じだったのだがおそらく喫茶店ではないだろう。椅子も机もない。あるのは木製の細長いカウンターのようなものだけだ。その奥をみるとドアがあった。その中に誰かいるのだろうか。俺はそのドアに向かって声をかけてみた。
「すみません。誰かいますか?」
しばらく待ったが返事はない。もう一度声をかけてみようかと思ったその時、奥のドアがぎぃという音をたてながら開いた。
「すまない。少し待たせたかな?」
そう言いながら出てきた二十代ぐらいの男性は俺を見るなり驚いた表情になった。
「ほう、声で聞いたより結構若いな。もしかして君、予約者ではないのかい?」
この店は予約制なのか?と思いつつ俺は答えた。
「はい。通りかかったので気になって入りました。もしかしてここって予約制ですか?」
「いや、そういうわけではないのだがまあ予約者しかこないかなぁ」
その言葉に少し安心した俺は次の疑問を投げかけた。
「ここってどういう物を売っているのでしょうか?」
すると男はニヤリと笑い、声を張り上げ言った。
「ここかい?まあ見ず知らずの君に教えるのも望ましくないんだけどね。一応客だから教えておくよ。ここは人にとって大切なもの、決して忘れてはいけないもの、もしくは忘れたいもの、そう、風景を売っているのさ!!」
俺はその声に圧倒されつつも、その内容に耳を疑った。




