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四つ葉べんり屋

作者: 涼風 すず

「ありがとう御座いました」

 私が笑顔でそう言うと、相手も笑顔になる。

 それが私の一番嬉しいひととき。



「こんにちは。今日の分持ってきたよ」

 私がそう言うと、ビニールシートとダンボールなどで出来た家から人が出てきた。

「達朗さん、体調どうですか?」

「あぁ、大丈夫だよ。麻那ちゃん、いつもすまないね」

「別に良いですよ。ただ、私に甘えないで下さいね」

 この達朗さんはホームレスだ。

 1ヶ月ぐらい前に倒れてるところを見つけ、それからは私が食事を持ってきてる。

「分かってるよ。ありがとう」

 達朗さんはそう言って、笑顔を見せてくれた。

 この笑顔が凄く嬉しい。つられて私も笑顔になる。

「達朗さん、今日は元気そうですね。ちょっと今から私と出かけませんか?」

 私がそう言うと、達朗さんは快く了解してくれた。


「こんにちはー。四つ葉べんり屋です」

 暫く歩いた後、私はとある家のチャイムを鳴らすとそう言った。

 一緒にきた達朗さんは、不思議そうに私を見る。

「私がべんり屋って知りませんでしたっけ?」

 不思議そうに私を見る達朗さんに私はそう言った。

 確か、言ったと思うんだけどな……


「あ、お待ちしてました」

 達朗さんの返事を聞く前に、玄関が開き女の人が出てきた。

「こんにちは。お久しぶりですね」

「えぇ、お久しぶり。さ、中にどうぞ」

「はい。お邪魔します」

 そう言って、玄関前の階段を登って、家に入ろうとした。

 でも、達朗さんが付いてこない。

「達朗さん? どうしました?」

 その声に気づくと達朗さんは困ったような顔をした。

「あの……嫌でしたか?」

 私がそれに気づいて声をかける。

「あ……いや、俺なんかが家に入って良いのか……?」

 私はそんなに気にはしてなかったが、よく見ると達朗さんは凄く汚れた服を着ていた。おまけに何日もお風呂に入ってない様子だ。

「あ……駄目ですかね?」

 私は玄関にいる恵美さんに聞いた。

 暫く達朗さんを見た恵美さんは少し困ったような顔をし、私に聞いてきた。

「麻那ちゃんのお知り合いの方?」

「はい」

 私が迷いなく答えると、また困惑したような顔になった。

 同じ人なのにな……そう思ったが、やっぱり口になんて出来ない。

「じゃあ、今日は天気がいいんで縁台で」

 縁台なら家に入らなくても平気だ。

「あら、そう? じゃあ庭の方にどうぞ」

「それじゃあ、お邪魔します。達朗さんも行きましょ」

 達朗さんは申し訳なさそうに恵美さんに頭を下げ私の後を付いてきた。


 縁台に行くと、既に私が会いに来た人が待っていた。

「文子さん、お久しぶりです」

 私が笑顔で元気よくそう言うと、文子さんもニコッと笑って

「お久しぶりねぇ。ずっと楽しみにしてたのよ」

 と言ってくれた。

「あ、こちらは文子さんです」

 隣に達朗さんが居ることを思い出し、私は文子さんを紹介した。

「ど、どうも。初めまして」

 それを聞いた達朗さんはちょっと慌ててそう言った。

 私はその様子をみて微笑みながら

「こちら、私の知り合いの達朗さんです」

 と文子さんに紹介した。

「あらまぁ、麻那ちゃんのお知り合いの方なの?」

「はい」


 そんな会話をしていると、恵美さんがお茶を持ってきてくれた。

「それじゃあ、ちょっとの間私は出かけてきますので」

「あ、分かりました」

 私が返事をすると、恵美さんは行ってしまった。


「そういえば、四つ葉べんり屋って……」

 あれ?

 まだ話してなかったっけ?

 私たちの様子を暫く見ていた達朗さんがいきなり聞いてきたのだ。

 話したって思っていたのだが……

「あれ? 話してませんでしたか?」

「なんとなーく聞いた気がするんだが……」

 達朗さんはそう言いながら、一生懸命に思いだそうとしているようだ。

「四つ葉べんり屋はその名の通り、べんり屋さんですよ」

 私はニコッと笑いながら、話を続けた。

「まぁ、そんな凄いものじゃないんですが、何か人の役に立ちたくて、私が始めたんです」

「ほぉ……麻那ちゃんがか!?」

 達朗さんはビックリしたようだ。

 まあ、それも当たり前か。

 普通は私ぐらいの歳の子は、高校三年生のはずだから。

「はい。十五歳の時に始めて、今は……」

 えーっと、十七歳だから……

「約一年半ぐらいかな」

 それを聞いた達朗さんは更に驚いたようだ。

「あ、でも会社ってわけじゃないんで」

 私は慌てて、そう言った。

 それでも達朗さんは

「凄いなぁ麻那ちゃんは」

 と言ってくれた。


 別に大したことじゃないのに。

 ただ、私は人の役に立ちたかった。人の為では無く自分の為に。

 今は、みんなの笑顔が見れると嬉しくて、それでやっている。



「ありがとう御座いました。また何かありましたらご連絡下さい」

 恵美さんが帰ってきて暫くしてから私たちは帰った。


「達朗さん、今日はありがとう御座いました」

 文子さんの家からちょっと離れたところで、私は達朗さんにそう言った。

「え? 別にお礼を言われるようなことはしてないよ。ただ文子さんと話してただけだし」

「いえ、文子さん達朗さんとお話出来て凄く嬉しそうでしたから」

「いやぁ……俺も久しぶりに楽しかったから」

 達朗さんはそう言うと、私に今までにない笑顔を見せてくれた。

 嬉しいなぁ。

「あ、そう言えばこれ。貰って下さい」

 私はそう言うと封筒から千円札を出し、達朗さんに封筒を渡した。

「え!? 四千円……こんな物、麻那ちゃんから受け取れないよ」

 達朗さんは、そう言うと封筒を私に差し出した。

「いえ、貰ってもらわなきゃ困るんです」

 私もここで引き下がるわけにはいかない。

「麻那ちゃん。いくらホームレスとはいえ俺は大人だ。だから子供の麻那ちゃんからお金を貰うことはできない」

 達朗さんは怒ってるようだ……

 違う。そういう意味じゃないのに。

「これは、文子さんと話してもらった分なんです。私はボランティアとして文子さんと話してた訳じゃないんです」

「どういう意味だい?」

「私はべんり屋です。だから代金は貰うんです」

 それを聞いた達朗さんは更に怒ったようだった。

 どうしよう……とにかくちゃんと説明しなきゃ。

「達朗さん。落ち着いてちゃんと聞いて下さい」

 私は慌ててそう言うと、話を続けた。

「代金を頂いてることは文子さんも知っています」

「え!?」

「四つ葉べんり屋は貰える方からは代金を頂いてるんです」

 その後も私はちゃんと説明をした。

 私の家族はべんり屋を応援してくれてること、だから代金を貰わないでやりなさいって言ってくれたこと。

 でも、私は家族に迷惑を掛けたくなかったから、家族にもちゃんと話して代金を貰うようにしたこと。

 でも、相手が楽しんでくれなかったりした時は代金を貰ってないこと。

 貰った代金は、食事代などとして家に入れていること、残った代金は募金などや人の役にたつ為に使ってること。

 とにかく、ちゃんと分かってもらいたかったから色々説明をした。

「そうか。麻那ちゃんが色々考えてることは分かった。でも、そのお金は貰えない」

 私がホッとしたのもつかの間。

 達朗さんは代金を貰うことを拒んだ。

「え……何でですか?」

「確かに麻那ちゃんの言いたいことは分かるし、良いと思う」

「じゃあ、何で?」

 分からないよ……

「今日は俺も楽しかった。だから俺が代金を貰うのは間違っている」

「でも……」

「それじゃあ、これでどうだ? この金は俺からのお礼だ」

 それじゃあ困るよ。だって、私も楽しかったもん。

「それじゃ駄目です。困ります」

 私がそう言うと、達朗さんも困った顔になった。

 どうしよう……

「それじゃあ、今までの食事代としてはどうだ?」

「え?」

「食事持ってきてくれただろう」

「……でも」

 今日、達朗さんを連れてきたのはこの代金を貰って貰うためだったのに……


 あ、そうだ。

「じゃあ、これでどうですか?」

 私はそう言うと、封筒から千円を取り出した。

「さっき私の分として千円貰いました。で、この千円は達朗さんの食事代として貰います」

 そう言って私は三千円入った封筒を達朗さんに渡した。

 これならどうだろう……私はこれでなら良いんだけど。

 達朗さんのほうが千円多いし。

 私のほうが多く貰うのは嫌だから。

「でも……」

 達朗さんはまだ受け取ってくれないようだ。

「達朗さん。受け取って下さい。今日やったのはお仕事なんですよ」

 私はそう言うと、無理矢理達朗さんの手に封筒を渡した。

「暫くはこのお金でご飯食べて下さい」

 笑顔でそう言うと、達朗さんは仕方なさそうに受け取ってくれた。

「あ、たまに差し入れ持って達朗さんの家に行きますからね」

「あぁ、ありがとう」


「あ、そういえば仕事一緒に探しましょうか?」

「え、そこまで面倒は掛けられないよ。今のままでも十分迷惑かけちゃってるんだから」

 達朗さんはすまなそうにそう言った。

「でも、早めに仕事見つけてくれなきゃ心配で夜も寝れませんよ」

 私は笑いながらそう言う。

「本当にいい子だね、麻那ちゃんは。じゃあ、お願いしようかな」

 達朗さんは、笑顔でそう言った。

 この笑顔が嬉しい。つられて私も笑顔になる。


【四つ葉べんり屋はその笑顔の為に頑張ります】


 読了ありがとう御座います。

 いかがでしたか?

 少しは楽しんでいただけたら嬉しいのですが……


 なんだか何が言いたいのか分からなくなってしまったんですが、ここまで長い短編を書くのは初めてだったりします。

 ただ長くて何が言いたいか分からないと最悪な感じですが……

 四つ葉べんり屋・麻那の話は他にもあります。というか、書いてる時に浮かびました。

 そして、今回の話ももう少し長くして分かりやすくしたかったので、長編にもしようと思ったんですが……そうすると続かないので。

 ただ、読んでみたい方がいた場合や書きたくなった場合、書く予定です。

 その前に今の連載をどうにかしなきゃいけませんが……


では、つまらない後書きまで読んでいただき本当にありがとう御座いました。

感想&アドバイスいつでもお待ちしてますので、もし宜しければそちらもお願いします。


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― 新着の感想 ―
[一言] 初めまして。こういう物語は個人的に好きです。今回、達郎さんがホームレスという事情もありますが、麻那さんからお金を受け取らないやりとりが、良いなと思いました。  もう少し何か物語があれば、もっ…
[一言] こんにちは、読ませて頂きました。 こんな女の子、リアルに居そうな気がしますね。 しっかりとした芯のある感じや、優しさが伝わってきました。 次回も楽しみにしてます。頑張ってください。
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