アフターストーリー リベンジライブ
アフターストーリー リベンジライブ
啓太が控室で「またバンドやろうぜ」と言った日から、二ヶ月後。
私は久しぶりに、小さなライブハウスの楽屋に立っていた。
東京ドームとは比べものにならないくらい小さいステージだ。
でも、不思議と緊張していた。
「懐かしいな、俺たちが二人で東京に出てきてやったのも、最初はこういうとこだった。原点ってやつだ」
駿介がベースを肩にかけながら言う。
「配信準備オッケー! 今回も僕の編集でバズらせて見せるんだから」
大輔はノートパソコンを何台も何台も広げている。
「結愛ね、ライブハウスって初めて」
「嘘つけ、高校のとき文化祭ライブやっただろ」
「あれは、ライブハウスじゃなくて体育館だもん、今でも覚えてる。駿ちゃんの背中見ながらキーボード弾いた」
結愛はいつものように駿介の腕にくっついていた。
啓太は真剣な表情でギターをチューニングしていた。昔より、ずっと音が鋭い。
「啓太、腕上げたね」
「当たり前、オレ、めっちゃ練習したから」
啓太はニヤリと笑ったあと、少しだけ真面目な顔になる。
「お遊戯会レベルって言われたの、まだムカついてるし」
私は笑った。
黒覇さんのあの言葉、本当に悔しかったんだろうなぁ。
再会してから啓太から何回も同じ言葉を聞いた。お遊戯会レベルって。
そのとき、楽屋のドアがノックされた。
「そろそろ出番です」
私は目を閉じ大きく深呼吸する。啓太があの時と同じセリフで私を気遣う。
「麻紀、ビビってる?」
「ちょっとだけ」
「大丈夫。オレらがついてるから、お前は思いっきり歌えばいい」
そう言いながら啓太はギターを背負った。
「オレら、前もやっただろ」
そうだ。やった。
文化祭の体育館で。
あの日と同じ五人。
違うのは、みんな少しだけ大人になったこと。
ステージの真ん中でスポットライトで照らされる。
客席の表情まで見える小さなライブハウス。
満員の客席を見渡す。もちろん、私や駿介目当てのファンの方が多いのだろう。
あの『Liminal BlueのMAKI』がライブハウスでっ!?って話題になったって聞いた。
でも今日は違う。
私はいつも通りMAKIだけど、そうじゃない。
今日は──私たち五人のバンドだ。『Blue Leaves』だ。
駿介がマイクを持つ。いつもはMCなんてめんどくさいって言って私にばっかり喋らせるのに。
「久しぶり」
客席がざわめく。ざわめくというよりどよめく。そんな感じだ。
「今日は特別なライブだ。昔の仲間とやる。みんなも動画見たことあんだろ? ここにいるのがあん時のメンバー、俺やMAKIは見慣れてるだろうからさ、今日はコイツらの音聞いてって、割といいからさ。って割とってダメか」
大輔がドラムスティックを回す。結愛が鍵盤の前で笑う。
そして啓太がギターを構え、派手な音を掻き鳴らした。
「盛り上がっていくぞ、『ボクたちのRush Hour』」
ドラム、ベース、ギター、キーボード。
そして私は歌う。声で会場を満たす。サビで一段と客席が沸く。拳を突き上げてみんなが吠える。
何年も前の曲なのに、CDになっているわけでもないのに覚えてくれてることに感激する。
あの文化祭のステージで一番最初に歌った曲だ。
と、隅の方の一角だけ明らかに盛り上がってないことに気がつく。
全身黒づくめでおまけに黒い帽子をかぶった男。
まさか?
黒覇プロデューサー?
こんな小さいライブハウスに?
東京ドーム公演さえ観にきてくれなかったのに?
駿介も啓太も気がついたらしい。
明らかに音が挑発を始めた。ニヤッと笑った後、ギターソロに入る。強く鋭い音がどんどん熱くなっていく。
激しく熱い啓太のギター。
大輔のドラムが会場を揺らす。
結愛のキーボードが曲を包む。
駿介のベースはすべての中心にある。
そして私は歌う。全員で一気に駆け抜ける。
曲が終わった瞬間、会場はまるで爆発したみたいな歓声に包まれた。
駿介がマイクを持つ。そして客席の隅を見つめた。
「黒覇さん、どうでしたか?」
静かな言葉だった。会場がざわめく。黒覇さんの近くのお客さんから悲鳴に近い声が上がった。
世界の黒覇を生で、こんな至近距離で見るなんて思ってもいなかったに違いない。
キャーキャーと言う黄色い歓声と、地鳴りみたいな声が鳴り止まない。
ジャン、とベース音。駿介が会場中の視線を自分に引きつけてから言った。
「お遊戯会レベルでしたか?」
会場が一斉に笑う。
お遊戯会レベルって言われてバンドを解散して二人で上京した話は、テレビや雑誌で何度かしたから、私たちのファンの方ならみんな知っている。
闇夜の覇王の冷酷な判断って週刊誌にも出ていた。駿介がその『お遊戯会レベル』を口にして、黒覇さんを詰める。
黒覇さんは苦笑いした後、降参だとでも言うように、片手をあげてヒラヒラと振った。
啓太が駿介に、というかマイクに近づく。
「言っとくけど、オレ、こっからまだまだギター上手くなるから」
客席がどっと盛り上がる。
私は笑いながらマイクを握った。
「このバンドは……」
少しだけ間を置く。
「……最高です。このバンドが私の音楽活動の原点です」
歓声と拍手に包まれながら、私は思った。
あの日。
真新しいローファーを履いて走った朝。あの時、出会った四人。
あれがすべての始まりだった。
そして今。
少しだけ大人になった私たちはもう一度、同じステージに立っている。
五人で。




