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第五話 写真週刊誌


第五話 写真週刊誌



 動画がバズってから、私たちの生活は少しずつ変わっていった。

 YouTube(ユーチューブ)の登録者数はどんどん増えた。


 大輔が編集した動画はどれも再生数が伸びた。


 ポップな曲のMV風動画。

 バラード曲の弾き語り動画。

 スタジオでの練習風景。


最近はテロップなんかもついていて、トチったところまで、アップされるから気が抜けない。



 コメント欄は毎回盛り上がった。


『MAKIちゃんの歌声マジ最高すぎる。』

『声が透明すぎる、天使の歌声。一生聴いてたい』

『曲も良すぎる、どっちの曲もいい』

『作曲のSHUN、天才か』


 駿介はコメントを見ながら笑う。


「褒めすぎだろ」

「いや、事実じゃん。駿介の曲はすごい、麻紀の歌声もすごい」


 結愛がスマホを見て嬉しそうにしている。


「結愛ねぇ、コメント読むのだぁい好き♡」

「なんて書いてあったの?」

「キーボードの子かわいいって」

「それは絶対お世辞だろ」


 駿介がからかうと、結愛はぷぅと頬を膨らませて唇を尖らせた。


「ほんとだもん! うわーん、駿ちゃんのバカぁ」




 そんな日々が続いたある日。

 私たちは学校帰りにワクドナルドに寄った。新作の『ザクザク鬼斬りポテトバーガーセット』が目的だ。


 五人でテーブルを囲む。私の左隣に啓太、目の前に駿介、その右側に結愛、大輔はお誕生日席だ。

 痩せているのに大食いの啓太がハンバーガーを三口くらいで食べた後、ポテトをつまみながら言う。


「自分で言うのも何だけどさ、オレらって、結構有名人じゃね?」

「まぁそうだね、学校の中では有名だよね。僕も女の子にモテモテ……じゃないのはなんでぇ? ねぇなんで?」

「大ちゃんはモテモテとはちょっと違うけど、うちの学校では有名人だよね、結愛よく聞かれるもん」


「お前らなー、浮かれるなよ」

「えー、でもだって結愛は単純にすっごく嬉しい、みんなに駿ちゃんの作った曲が認められて、ええ、天才なんです、うちの主人、って」

「おいおい、俺はいつお前の主人になったんだよ」

「え、ひどい、駿ちゃん、結愛のこと遊びだったの」


夫婦(めおと)漫才辞めろって」


 啓太のツッコミが冴え、みんなで一斉に笑った。


「結愛、ちょっと『()()()()()』に行ってきます」

「便所でクソしてくるって普通に言えよ」

「駿ちゃんのバカァ、ノンデリ」

「嫌いかよ?」

「……大好き♡」


 二人は相変わらずのラブラブっぷりだ。

 ざわざわしているワクドナルドとはいえ、飲食店内でその言葉は確かにノンデリだけれども。


 そのとき、ふと隣の席に座っている男の人がスマホをこちらに向けているのが見えた。

 でも、気のせいかなって、そのときはあんまり気にしなかった。





「えええ!?」


 数日後、大輔がスマホを見ながら叫んだ。


 何だろう? また再生数がすごいことになったんだろうか?

 音楽室にいた私たちが一斉に振り向く。


「どうしたの?」

「これ見て! これ、麻紀ちゃんが……」


 大輔がスマホを掲げて見せる。


 そこにはいつものYouTube(ユーチューブ)チャンネルではなくネット記事が表示されていた。



 大きな文字でセンセーショナルな見出しが躍る。


『今話題の高校生ボーカルM、バンド内恋愛か?』


 その下に──

 ワクドナルドでの写真が載っていた。


 結愛抜きで、私の左隣に啓太、目の前に駿介、お誕生日席に大輔という配置の写真だった。


「え……」


 私の声が震える。おそらく結愛がお手洗いに行っている時だ。


 角度的にあのとき、隣の席から撮った写真だろう。

 隣の席でスマホを向けていた男の人、あれは勘違いや気のせいではなかったんだ。


 さらに記事は続いていた。


『バンド内には複数の男子メンバーがおり、恋愛関係がある可能性も。Mちゃんの本命は誰? もしかすると全員と同時進行?』


 ご丁寧にハートマークと『ほわぁ〜ん』というなんとも色っぽい文字が踊っている。


 

 そして、その下に書かれていた言葉で、私は凍りついた。


『なんとMちゃんは中学時代にも友人の彼氏を略奪した過去があるという噂』

『肉食系女子のMちゃんはその美声と美貌で男性陣を虜にするサキュバスなのか?』




「……」


 胸が冷たくなる。中学時代の話はおそらく同級生の誰かが漏らしたのだろう。

 啓太が大輔からスマホを奪い取った。


「なんだこれ、デタラメばっかり書きやがって」

「ムカつくよねー、僕ものすごく怒ってるんだから」


 啓太と大輔が口々に怒鳴った。

 駿介だけは冷静に記事を読んでいた。そして言った。


「クソ記事だな」

「麻紀ちゃん……」


 私よりも泣きそうな顔をした結愛が心配そうに私を見上げる。

 私は結愛を安心させたくて少しだけ笑った。……笑えていただろうか。


「大丈夫……うん、全然」


 でも、本当は、少しだけ怖かった。

 中学の頃のことは、四人には言っていなかった。言えていなかった。


 なのに、こうして『()()』なんて言葉で書かれる。



「気にすんな」

「そうだよ、僕は自分が知ってる麻紀ちゃんを信じるよ」

「そんなネット記事なんか信じるやつがバカだろ」



「そうそう」

「無視でいい」

「結愛はね、麻紀ちゃんのことが大好き」


 そして結愛はいつも駿介にするみたいに私の腕にぶら下がった。

 私は、この件で、中学の頃みたいに突然友情が失われたりしなかったことにホッと胸を撫で下ろした。





 そのとき、私はまだ知らなかった。


 もっと大きな出来事が、このあと私たちを待っていることを。





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