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第四話 バズる動画


第四話 バズる動画



 文化祭が終わったあとも、私たちのバンド活動は続いた。

 むしろ、あの日を境にもっと本気になった気がする。


 週に数回だけれども音楽室も借りられるようになった。

 大輔の家への移動時間がなくなった分、もっと練習時間が確保できるようになった。


「この間の文化祭の時の演奏動画、上げようよ」


 そう言い出したのは大輔だった。


「動画?」


 私が聞くと、大輔は得意げにスマホを見せてきた。


「文化祭、僕、色んな角度から撮ってたんだよ」

「え、マジ?」


 啓太が身を乗り出す。


「しーかーもー、僕は動画編集もできる」

「大輔、なんでそんなスキル持ってんだよ」


 駿介が呆れたように問い詰めると、大輔はえっへんと胸を張った。


「僕、実は動画編集オタクだからね」

「大ちゃん、すごいね」


 結愛がぱちぱち拍手する。



「したら、もしかして、大輔それYou(ユー)Tube(チューブ)とかに上げられんのかよ? バンドって普通そういうのやるだろ、な、駿介」

「まあ……モノは試しだし、やってみるか。大輔に任せちゃってもいいの?」

「おけまるー、僕にお任せあれ」




 それから数日後。大輔が音楽室にノートパソコンを持ってきた。


「完成しました! めちゃめちゃカッコいいよ」


 私たちはそのノートパソコンの画面をのぞき込んだ。



 文化祭のライブ映像。


 カメラは意外と、って言ったら失礼か、でも本当に意外とちゃんと綺麗に撮れていた。

 大輔の編集で、音もちゃんと整っている。


「すごい……何かプロみたい」

「でしょ? 僕も自分で天才かなって思ったよ。僕がこのバンドの動画担当で不動の地位を築いたってことでいいかな?」


 いいも何も、他に動画編集なんてできるメンバーはいない。




 大輔が慣れた手つきでチャンネルを作って、動画を投稿する。

 タイトルは極々シンプルだった。


『高校生バンド『Blue(ブルー) Leaves(リーブス)』文化祭ライブ』


 もちろん最初は再生数なんてほとんどなかった。


 クラスの友達にラインして、見てね、なんて軽くお願いをした。


 十回。


 二十回。いくら待っても、この辺りが限界っぽかった。


「まあこんなもんだろ、素人のライブ映像だしな」


 駿介が当然のように言う。




 でも──


 数日後。


「……え?」


 私はスマホを見て声を出した。




 再生数。一、十、百、千、万……えええ、三万?


「えええ!?」

「なにこれ!?」


 この間、文化祭で青いうちわを用意してくれていたクラスの友達が、XとInstagram(インスタグラム)TikTok(ティックトック)で紹介してくれていた。

 そこからどう拡散されたのかは分からないけれども、たった数日で驚くようなことが起きてしまった。


 コメント欄もびっくりするくらい増えていた。


『歌うますぎ、あとめちゃビジュ良くない? カメラアングルもうちょい寄りでシルブプレ』

『ボーカル誰? 透明感が半端ないって。あと普通にキレイな子』

『声めっちゃ綺麗、なんか泣きたくなってきちゃう』


『曲もよくない?』

『これ本当に高校生? プロの手が入ってるっしょ?』




「バズってる! 僕天才じゃない?」

「マジだな、これがバズ……」



 さらに数日後。

 勢いは止まらず、むしろどんどん拡散され、十万再生。……すぐに二十万再生になった。



 コメントはどんどん増えた。


『ポップ曲もいいけどバラード曲マジ神。切なすぎて飯しか喉を通らん』

『え、何これ。この二曲同じバンドなん? マジか』

『振り幅エグい、高低差で耳キーンなる』

『作曲誰? 二曲とも同じやつが作ったの? もう一回聞く、作曲誰?』



 そのコメントを見て、駿介が照れくさそうに言った。


()


 そんな駿介を見て、啓太が笑った。


「やっぱ駿介天才じゃん、さすがリーダー」


 私はただ驚いていた。

 私たちの音楽が、知らない人に届いている。それもこんなにたくさんの人に。

 信じられなかった。




 帰り道、二人で並んで歩いていると、不意に啓太が言った。

 友達だった頃よりも、付き合い始めてからの方が少しだけぎこちない。



「麻紀さ、なんか有名になりそうじゃね?」

「そんなわけ……ないじゃん」

「オレは、本気でそう思ってる、麻紀の歌はすごいって。駿介の曲もすごいけど、麻紀の歌はものすごい」


 なんか、そんな風にストレートに言われて……ものすごく恥ずかしい。



 二人の間に少し沈黙が流れた。そのあと啓太が私の手を取った。


「……!」


 初めて手を繋ぐ。

 こんなのドキドキする。心臓が破裂しそう。


 啓太がもう一歩だけ近づいてきた。


「麻紀……」


 顔が近い。


 これは、もしかして──


 キス?




 イヤ? イヤじゃない、けど、でも、だけど……私は慌てて口を開いた。


「ま、待って! ごめん!」


 あああ、私はダメだ。


 高校生なんだし、お付き合いをするってことは、キスだって……もしかすると、それ以上のことだって、多分みんなしてる。

 こんな風にキスを拒んだりしたら嫌われるかも、啓太と気まずくなったりしてしまうんだろうか。



「……ごめん」

「いや、いいよ。オレもごめん」


「ほんとにごめん、イヤとかではないの、ないんだけど」

「うん大丈夫、待つから。麻紀のタイミングで進もう」


 少し照れくさそうに言ってくれた啓太の言葉がすごく優しかった。




 私は胸がぎゅっとなった。私、本当にこの人のことが好きだ。


 金髪で真っ赤なピアスで一見するとチャラそう。

 最初に会った時だって、結愛が言っていた、『また女の子泣かせているのかと思った』って。



 でも実はそうじゃない。

 この人はいつだって優しい。


 女の子全般に優しいけれど、それ以上に私のことをよく考えてくれている。


 私があまりにも緊張してるから笑わせてくれようとして、自分たちの幼なじみの輪の中に自然と入れるように話しかけてくれて。

 最初のカラオケだって多分私がみんなともっと仲良くなれるように企画してくれたんだ。


 おかげでバンドの仲間に入れて、今はこうやって二人でお付き合いなんかしちゃって。

 キ、キ、キ……キスだって、私のタイミングで、って……。



 ずっと一緒にいたい。

 啓太と、みんなとも、ずっとずっと一緒に。



 このとき、私はまだ知らなかった。


 この先、私たちのバンドに大きな、大きな選択が待っていることなんて。





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